5部分:第五章
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第五章
「それ以外の何に対しても」
「はい、神もおられますよ」
「えっ!?」
「ほら、あちらに」
その人だかりの中のある場所を指差すとである。そこにいたのは。
「えっ!?」
「見えますね」
「あの」
ゴンザレス神父は今自分が見ているものを信じられなかった。何とそこにいるのは自分達と同じ信仰の人々だったからである。
「キリストは言われました」
「貧しき人は幸せであると」
「悔いあらためましょう」
こう言って神の教えを説いていたのである。しかも神社の敷地の中でだ。
彼等は神社に向かう人達に対して神の道を説いていた。キリストの教えをである。
ゴンザレス神父もこのことには仰天した。そして思わず隣にいるパヴァロッティ神父に対して問い返したのである。
「あの、これは」
「見えますよね」
「何ですかあれは」
思わずこの言葉を言ってしまったのだった。
「ここは神社ですよね」
「はい、そうです」
「それでどうして」
唖然としたままの顔で話し続けるのだった。
「何故いるのですか」
「それが日本です」
「それがですか」
「はい、日本なのです」
こう笑って話すパヴァロッティ神父だった。
「おわかりになられましたか」
「いえ、それは」
ゴンザレス神父は真剣そのものの顔で語るのだった。
「宗教が違うではありませんか」
「はい、違いますね」
「他の国なら大変なことです」
ゴンザレス神父の生真面目な言葉は続く。
「それこそ何をされてもです」
「ここから叩き出されてもというのですね」
「イスラムのモスクで主の教えを説けば」
ゴンザレス神父はわかり易いように話した。ただしこれは自分自身にとってわかり易いようにという意味である。パヴァロッティ神父に対してではない。
「それこそ殴り倒されます」
「下手すれば殺されますね」
「それは覚悟しなければなりません」
そこまでだというのである。
「そうでなくともです」
「そうでなくともとは」
「カトリックの教会でプロテスタントの牧師が説法をすることも」
「有り得ませんね」
「考えられません。しかし今」
「ですが見て下さい」
ここでまた言ってきたパヴァロッティ神父であった。
「日本の人達を」
「な・・・・・・」
ゴンザレス神父は彼等を見てまた驚くことになった。何と、であった。
誰もその説法をする彼等について何も驚かない。立ち止まって話を聞く者はいる。しかし止めたりしようとする者はいない。誰一人としてである。
「誰も何も」
「御覧になられましたね」
「止めないのですか」
「止める必要がないからです」
だからだというのだった。
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