暁 〜小説投稿サイト〜
もう一つ、運命があったなら。
近づく運命
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た。
 
 この人の陰口は相手にばれなければ意味がないらしい。それってただの間接的な文句じゃないか。むしろ面と向かって言われた方がマシな気もする。

 いつもより朝食の時間が遅れてしまったのも俺が土蔵で寝ていたのが理由なので綾ねえの言葉は間違いではない。今日のところは言われるがままで許してやろう。

「西条先生、車には気をつけてくださいね」

 エプロンで手を拭きながら澪が茶の間から見送りに出てくる。

 弁当袋を指に掛けて立ち上がり、玄関を開けて綾ねえはこちらを振り返った。

「あいよ。んじゃ、お前らもあんまダラダラすんなよ。いちゃつくのも、ほどほどにな」

 ニヒルな笑顔を浮かべて玄関前に置いてある自転車に跨り、ベルを鳴らして門を出ていく綾ねえ。最後のセリフは適当に言っただけだよな。朝のやり取りを見ていたわけじゃないよな、そう信じてる。

 綾ねえが居なくなり、玄関には俺と澪と気恥ずかしい空気が取り残される。綾ねえの奴、余計なもんを置いていきやがって。

 隣に立っている澪は俯いて表情を隠しているが、頬と耳が朱色に染まっているのが分かってしまった。

 背中が少しむずがゆい感じがする。後頭部を掻き、その後に一つ咳払いをした。

「ほら、突っ立てると風邪ひくぞ」

 その垂れる頭にポン、と手を当てて俺は茶の前へと戻る。あんまり敏感に反応はしちゃいけないんだぜ、ダメな男はそれを誘っているのと勘違いしちゃうからな。

「あ、あの先輩。今朝のことは」

「ん? ああ、気にすんな。俺も寝ぼけてたからよく覚えてないし」

 嘘です。超覚えてるけどそんなこと言えるわけがない。澪的にも忘れて欲しい記憶はずだしな、出来るだけ忘れる努力をしよう。

 でも、寝る前とかはちょっと思い出してもいいよね。あんなドキドキする出来事なんて年に数えるくらいしかないだろうからな。

「……ありがとう、ごさいます」

 感謝される謂れもないのだけれどそれを言うのは野暮だろうから黙っていよう。誰にだって恥ずかしいことをしてしまうときはあるからな、それを受け入れてやれなくて何が先輩か。先輩ならば笑い飛ばしてやるくらいの心の広さを持っていたい。


Ж Ж Ж Ж Ж


 茶の間に入り、定位置に胡坐をかいて点いたままのテレビを眺める。

 登校時間までは時間があるし、もう少しだけのんびりしていこう。

 朝のニュース番組ではどこかの動物園でパンダの赤ちゃんが生まれたとか芸能人が離婚したとかありふれた話題ばかりが取り上げられていて面白味がないな、と思うのと同時に世界は平和だなとも思う。

「先輩、お茶どうぞ」

「ああ、ありがと」

 澪が淹れてくれたお茶を啜りこの家も平和であることを感謝する
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