暁 〜小説投稿サイト〜
もう一つ、運命があったなら。
近づく運命
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このままでは家を出るのが遅くなってしまうので今日は簡単に折れる。

 よーし、なら今日の夜は俺がとびっきり美味い飯を作ってやろう。あと帰りに澪が好きなマカロンも買ってくるか。

「澪ー、アタシの弁当はこれかー?」

「西条先生のは赤い袋に入ってますー」

「お? なんか二つ入ってんぞ」

「それは朝練が終わったら兄さんに渡してくださーい」

「あー、そういうことか。わーったよ」

 そんな会話を背中で聴きながら茶の間を出て自室に向かう。


Ж Ж Ж Ж Ж



 現在の時刻は六時半を少し過ぎたくらい。柔道部の朝練がある綾ねえは間もなく家を出る頃だ。顧問も朝が早くて大変だな。

 庭に面した縁側を通り、家の一番奥にある部屋を目指す。武家屋敷みたいな形をしているこの無駄に広い我が家。昔は侍が住んでいたんじゃないのかと疑うくらいに古風な雰囲気がある。

 一人暮らしをするには十分というかこんなに部屋もいらない。客間とか何に使えばいいのか分からないくらいあって掃除するのも一苦労。

 あいつはなんでこの家を選んだんだろう、家族もいなかったくせに。

 襖を開けて部屋に入り、壁に掛かる制服を取って袖を通す。

 このダサいデザインにも二年も着ていれば慣れてくるもんだ。鏡を見る度に順応性が高まったのを実感する。これは穂村原学園に通う誰しもが通る道らしい。

 着替えを終え、机の上に置いてある一枚の写真立てに向かって手を合わせて目を瞑る。

 殺風景な部屋には物音ひとつなく、俺の息遣いと掛け時計の秒針が鳴らす小さな音だけが存在している。
 
「……んじゃ、行ってくるよ親父」

 父親だった男が映る写真に手を合わせること、それもいつも通りの習慣。

 居なくなってから今年で六年。いつの間にか一緒にいた時間よりも長い時間が経ってしまっている。

 変な感じだ。背が伸びるにつれて時間が過ぎるのが早くなっている気がする。

 それでも、この人と過ごした日々の記憶は薄れて行く気がしない。今思い出してもその時のように思い出し笑いが出来るのはそれほど濃い五年間だったということだろう。

 まぁ、今の生活もそれと変わらないほど幸せなんだけどさ。

 机の上に置かれた学生カバンを肩に掛けて部屋を出る。


Ж Ж Ж Ж Ж



 縁側を通り、窓越しに晴れた空を見て欠伸をした。平和だな、この家も。

 そんなことを思っていると、茶の間の方からパタパタと足音が聞こえてくる。

「やっべ、ちょっと遅れちまったじゃねぇか。くそ、バカ空也のせいだ」

「綾ねえ、聴こえてる聴こえてるから」

 縁側を抜けた先にある玄関で綾ねえが声のデカい陰口を叩きながら靴を履いてい
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