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もう一つ、運命があったなら。
同じようで何かが違う朝
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寝込みを襲うとむしろ自分が襲われちゃうからな、と言いたいのだが恥ずかしくて言えない。

後輩の女の子にそんな指導をする男の先輩、何だろう、どう考えても期待しているようにしか見えない。あとで遠回しに伝えよう。目覚めたばかりの男は前世の誰かを憑依するんだとか言っておけば大丈夫だろ。拙者、今からお前を襲うでござる、とか言い始めたら二度と起こしに来ないと思う。

「あ、澪。アタシの弁当もよろしくー」

 竹刀を肩にかけて教え子にそんなお願いをする先生を俺はこの人以外に見たことも聴いたこともない。いつになったら自分で料理をするようになるんだこの人は。だからいつまで経っても彼氏ができないんじゃないの? 

 言ったら確実に俺の首が身体から分裂してしまうことになるので絶対に口には出せない。料理をしろ、このワードは綾ねえに言うのは俺と澪の間で禁句となっていることだけは忘れてはならない。

 俺も澪も料理は得意だからすぐに教えられるのに。他人に厳しく自分の腕っぷしにはストイックな癖に、そういうところに興味がいかないのがこの人なんだよなぁ。

「了解ですっ。じゃあ先輩、私たちの分のお弁当も作りませんか?」

 笑顔で意気揚々な澪。いつにも増して今日はテンションが高い。昨日バイト帰りにケーキを買って行ったからかな。もしや今日も買って来いという遠回しなサインなのだろうか。澪ちゃん、恐ろしい。

 こんなに可愛い後輩のお願いを断れるほど強い心は持っていないので、どうしても澪に対しては甘くなってしまう。仕方ない。後輩、つよい。

「そうだな。なら、今日は気合いを入れて行きますか」

 天井に向かって背伸びをする。収縮した筋肉に血液が回り始め、目覚めたことを頭に教えていた。

 すがすがしい朝の風が土蔵の中に入ってくる。一月末の真冬だけど、少しだけ暖かさを感じる一日の始まり。俺にとっては当たり前の日常の出来事。普遍的な、当たり障りのない早朝だった。

「あと卵焼きは甘めでよろしく頼むぜ」

「はいはい。分かった分かった」

 土蔵の外は綺麗な青空が広がっていて、控えめな太陽がほんのりとした温度の日差しを庭一面に注いでいる。

 鳥の囀りと電車の遠鳴りが聴こえてくるだけの長閑な朝が俺たちを迎えてくれた。




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