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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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分の歩いてきた道を確かめたくなる、そんな日が来るかもしれない。その時、支えが欲しくなった母さんに、還ってこれる場所があるんだよ、っていうために、自分達はこの家と、山を守り続けて行くんだよ。って……」
目の前の杉林が、何も知らずにの山を駆け回っていた時、人のほとんどいない通学路を歩いていき帰りをしていた時、この村の外へ、外へと思いを募らせていた時、そして、何度となくあの縁側に座りこんでは何も考えずに、眺め続けていた時の杉林と、ぶれるように重なっていた。

「──私、あの時お爺ちゃんの言ってたこと、意味が全部はわからなかった。でもね、最近になってやっと、分かってきた気がするんだ。自分の為に走り続けるだけじゃなくて……誰かの幸せを、自分の幸せだって思える、そんな生き方もあるんだって……」
自分の意志がどこか遠くにあるような、そんな感覚を感じながら、京子は明日奈の言葉を聞いていた。心の堅い殻が少しずつ剥がれているように、彼女の言葉の本質を聞いている。

「私……周りの人たちみんなを笑顔に出来るような……そんな生き方をしたい。疲れた大切な人のことを、癒して、支えてあげられるような、そんな生き方がしたい──だから、そのために今は、大好きなあの学校で、勉強やいろいろな事を頑張りたいの」
……表情を変えることなく、京子は目の前の森を見つめ続けていた。そのままで、どのくらいの時が過ぎたのだろう。
不意に、森の中を白い影が二つ走り抜けた。ウサギのようなその生き物は、じゃれるように転げながら跳ねて数瞬の後、視界から消える。ほんの刹那のその光景が、京子の胸の深い部分に焼き付いた。

もう何年も前の冬の日、初めて自分が村を出て、大学に進みたいといったあの日。きっと強く反対するだろうと思っていた京子が用意していた反論は、小さく笑った父の首肯一つによって、全て霧散してしまった。
驚いたように聞き返した自分に、父は、窓の外の雪に包まれた杉林に走りまわる二匹の野兎を見ながら、こういったのだ。

『お前が本気なら、私達は止めはしないよ……自分の可能性を、試してきなさい』
『絶対……、反対すると思ってた』
『はは……でもな、京子』
『?』
『もし、どうしようもなく辛くなったら、心が折れそうになったら、その時は、何時でも帰ってきなさい、私達は、ここで待っているから』
『……ありえないわよ、私が自分で選ぶんだから、後悔なんてしないわ』
『ははっ、そうだな。お前は強い子だ』
『ちょ、やめてよ子供じゃあるまいし……!』
そう言って頭を撫でてくれたのが、父が自分の頭を撫でた最後だった。四年前に息を引き取るときに至るまで、そんな機会はなかったし、自分も子供ではなくなっていたから。
けれどそんな記憶にある父の手の大きさと硬さ、暖かさが、今の京子の脳裏に強く響くのを自
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