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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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な感慨と、湖面のように落ち着いた気持ちが胸を満たすのだ。京子自身、気持ちが書き乱されたとき、あの景色を見つめてゆっくりと冷静になっていく、そんな経験が何度となくあった。幼い明日奈が感じていたのがそれと同質のものだったのかはともかくとして、そんな不思議な魅力のようなものが、あの杉林にはあった。
勿論、京子にとっての光景ははるか過去のものだ。自分は少なくともあの光景と日々に戻りたいと思ったことはない、自分自身の今の姿をそれなりに気に行っているし、あの村での日々は今の彼女からすれば、停滞と退屈以外の何物でもないからだ。ただ、それでも、この景色は自分の……

「私が、中一の時のお盆の事、覚えてる?父さんと母さん、それに、兄さんは京都に行っちゃったけど、私はどうしても宮城に行きたいって言って、ホントに一人で行っちゃったときの事……」
「……覚えてるわ」
まだ六年もたっていない話だ、あれだけの衝撃であれば、当然よく覚えている。
迎えに行った仙台駅で、満面の笑みを浮かべる両親と共にのんきに駅弁を選ぶ明日奈を見て毒気を抜かれてしまい、用意しておいた叱り文句が霧散してしまったことまで、覚えているのだから、自分の中でもかなり印象の強い記憶だといえるだろう。

「あの時ね、私、お爺ちゃんとおばあちゃんに謝ったの、お母さんがお墓参りに来れなくてごめんなさい。って……」
「あの時は、結城の本家でどうしても出なきゃいけない法事があったから……」
「ううん、責めてるわけじゃないの」
反射的に言い訳をするようにそんなことを口走った京子に、慌てたように明日奈は言った。

「だって、お爺ちゃんたち、私が謝ったら茶箪笥の中から分厚いアルバムを持ってきてね?中見て、びっくりしちゃった。……お母さんの最初の論文から始まって、いろんな雑誌に寄稿した文章とか、インタビュー記事、パソコンなんて二人とも分からなかったはずなのに、ネットの記事までプリントして、全部ファイリングされてたの……」
「…………」
「お爺ちゃん言ってたわ、母さんは、自分達の大切な宝物なんだ、って。村から大学に進んで学者になって、雑誌に沢山寄稿して、どんどん立派になるのが凄く嬉しいんだ、って。論文や学会で忙しいんだから、お盆に帰れなくても当たり前だし、それを不満に思ったことは、……一度もない、って……」
頭の中に、ふと、少し以前の記憶がのぞいていたような気がした。いつからか帰ることを遠のけたい気持ちが生まれ始めていた実家にそれでも帰ったとき、両親はそんな京子の気持ちを知ってか知らずか、いつも同じように、まるで何の不満もないといわんばかりに「おかえり」を言ってくれた記憶……

「その後お爺ちゃん、こういってた。──でも、母さんもいつかは疲れて、立ち止まりたくなる時が来るかもしれない。後ろを振り返って、自
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