MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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いというのがまさしくふさわしい光景に、京子はますます疑問を募らせる。
「……どう?似てると思わない?」
何かを期待するような娘の声、しかし相変わらず何を意図しているのかさっぱりわからない京子は、顔をしかめていよいよ首を振った。
「はぁ……何が似てるいうの?ただのつまらない杉林じゃな──……」
唐突に、気付いた。確かに、目の前に広がっているのは、ただ雪が降り積もるだけの針葉樹林、杉林だ。だが……どういうわけか、確信があった、そう、ちょうど娘が言う通り、似ている──……私は、この光景を知っている。
「ね?思い出すでしょう……お爺ちゃんと、おばあちゃんの家を」
京子の実家、つまり、明日奈の祖父母の家は、宮城県のとある山間の集落のなかにあった。
峡谷部分を切り抜いて作ったような小さな集落の中、機会化もできないような段々畑に一家が一年で食べ終えてしまうような少ない量の米を細々と作って暮らすようなその村の中で育った京子は、自らの実家が本来、子を大学まで進学させるような余裕のある家庭では無い事は重々分かっていた。進学出来たのは、運良く実家の所有する土地に、先祖由来の杉林中心とする山林があったからで、それをしても、入学したのが国立で無ければ進学は諦めざるを得なかっただろう。
だから、というわけでは無い、いや、あるいそれ故なのかも知れなかったが、京子は自らの実家に、一定以上の感謝と敬意を持っていた。そう、自分では思っている。
ただ、それと同時に京子の実家に対する感情の中には、一抹、複雑な所があったのも事実だ。……一体何時からだっただろうか?夫の実家に行くたびに、自らの家柄を気にするようになっている自分自身に気がついたのは。
夫はそのような事柄を気にするような人物では無かったし、結城本家の義母も家柄よりも京子の能力を評価してくれる人物であったため、入籍の時は気にはならなかったが……少なからず、結城家の親戚たちの視線の中には、彼女の実家に対する侮蔑と、彼女の能力に対するやっかみの感情があった。その空気に当てられた、とは思いたくない、しかしおそらくはそうだったのだろう。徐々に京子は、自らの実家を恥と、そして自らの人生の汚点のように感じ始めるようになってしまっていた。
そう言えば、明日奈は昔から、京都の結城本家よりもあの家に行く方が好きだったな、と、京子はぼんやりとそんなことを思い出す。自分も両親もいつもいつも杉林をじっと見つめていた娘を見ながら、何が面白くてそんなにも熱心に単なる林を見つめるのかと首を傾げていたものだったが、そう言いながらも、京子は心のどこかで明日奈の気持ちをどことなく理解できるような気がしている自分がいることを自覚していた。別段、なんということがあるわけではない、ただ、雪の降り積もる家の前の杉林を見ていると、なんとなく、不思議
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