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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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「……?」
その拍子に、なんだか、妙に身体が軽いなと感じた、その時である。不意に後方から、シュンッと高い音がして振り向く、するとそこには、髪を水色に染め、青を基調とする服を身にまとった娘が立っていた。普段ならその髪の色を真っ先に詰問するところだが、なるほど、つまるところこれがこの世界における「明日奈」なのだろう。
目の前に立つ自分をどこか感慨深そうな目で見る彼女に(仮想空間なのに感情まで読み取れてしまうあたりが、なんとも違和感をぬぐえないところだったが)彼女は眉をひそめていった。

「なんだか、おかしな物ね、知らない顔が自分の思い通りに動くなんて……それに、なんだか変に身体が軽いわ」
つま先を使って体を上下させながら素直な印象を口にする。こういうあたりはやはり、仮想故の誤差というものか、などと考えていると。

「それはそうよ、そのアバターの体感重量は40キロそこそこだもの、現実とはずいぶん違うはずよ?」
娘がこんなことを言うので、若干カチンと来た。

「失礼ね、私はそんなに重くありませんよ」
確かに最近体重計に乗っていないのは認めなければならないだろうが、それでも40キロトは言わずまでもそこまで逸脱するほどの体重はない。……はずだ。

「──そう言えば、貴女は現実と同じ顔なのね」
「うん……まあね」
自分の返しに意外そうに答える娘を真顔で見つめながら、しかし京子はささやかな反撃に転じる。

「でも、少し本物の方が輪郭がふっくらしてるわね」
「なっ、母さんこそ失礼だわ!本物と全くいっしょです!」
自分と同じくムッとしたように言い返してくる……自分でも、こんな風に娘と軽口をたたくのが珍しいことは自覚していた。現実で彼女に甘い顔を見せたことや、必要と感じない会話を交わしたことなどほとんどないからだ。……ただ、これはこれで悪くない、以外にもそんな風に思っている自分がいることに気が付いて、しかし彼女は慌てて気を引き締めた。自分はここに、他愛の無いおしゃべりをしに来たのではない。

「……さ、もう時間がないわよ、見せたい物って、何なの」
この世界に来るのにも、五分だけ、という制約をつけたうえで来ているのだ、娘にしても、これ以上雑談に興じている時間はないはずだ。

「……こっちにきて」
歩き出した娘が京子を案内した先にあったのは、建物の奥まったところにある、小さな小部屋だった。彼女狭い部屋のさらに奥にある小窓を指すと、その向こうを見てほしいというかのように窓を開けた。

「…………?」
仮想の冷気が身を切るように肌を撫でるのを感じながら、娘の意図が分からないまま京子はその小窓の向こうを覗き込む。窓の向こうに見えたのは草の長い裏庭と、小さな小川、そして縞模様のように立ち並ぶ針葉樹の森が見えた。降り続く雪の中、寒々し
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