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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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「けど、それなら、すぐに仲直りできるんじゃないか……?」
「……どうだろうな」
すぐに難しい顔になった涼人が、抑揚のない言葉で答える。

「言ったろ、俺は自分が間違ってると思っちゃ居ねぇんだ……主張は変わらん。“その覚悟”がねぇなら……彼奴は、あの嬢ちゃんと付き合うべきじゃねぇんだよ……けどそこだけは何時言った所で、どうあがいても彼奴の気持ちとぶつかっちまう……まして、彼奴の気持ちに同調してやれねぇ俺が正論ぶって言った所で、彼奴には響かねぇだろうさ……」
「兄貴……」
「結局んとこ、最後まで何もできんかもしれねぇ、な……身から出た錆って奴だ」
自嘲するように笑ってそう言った涼人はしかし、瞳に強い意志を感じさせる光を宿している。どうしても、そこだけは曲げるつもりがないのだろう。その表情に、和人は困ったように、頬を掻いた。


────


「……奇妙な物ね」
普段の自分と比べても、明らかにハリのある肌にどこか複雑な感情を抱きながら結城京子は掌を握り開きを繰り返す。論文をまとめている中、メール一つで門限をないがしろにした娘が帰ってきて早々言い出したことは、端的に言えば「話を聞いてほしい」という内容の言葉であった。ただし、京子自身が現代社会の技術に置いて最も忌むべきものとして嫌う、VRワールドの中でだ。
なにも京子とて頭ごなしにVR技術を否定しようというわけではない。そうであるなら、とうの昔に娘に自分の命を奪おうとした機械の類を再度使わせることなど辞めさせている。夫の会社にもこの技術は莫大な利益を上げているし、この技術によって、世界には新たな一つの市場が出来上がり、その経済効果、伸びしろは計り知れない。そう、これは間違いなく、人類の技術の段階を一歩進めた技術だ、問答無用に否定などできようはずもない。
だがそれと、京子の個人的な感情は話が別だ……彼女は今でも時折、「あの日」のことを夢に見ることがある。
職場で見たニュースに自分の息子が買っていたものと同じ機会が移り、ゲームがどうの脱出がどうのと騒ぎ、そのゲームの名前を息子の口からきいたような気がして、彼が出張で安全だと分かっているにもかかわらず、猛烈に嫌な予感を感じて舞い戻った息子の部屋で自分の娘が件の機会を頭につけたまま眠るように座りこんでいた姿を見たときの衝撃と、何をしても目を覚まさない彼女に感じた足元に穴が開くような絶望感。そして無理矢理機会を外そうと伸ばした手が寸でのところで夫に止められたとき聞いた、久しく聞いていなかった自分の泣き声も。
その時の絶望が、胸の奥底にこびりついて剥がれない。

「(……寄りにもよって)」
こんな場所で、彼女の将来について、彼女の話を聞かねばならないとは……そんな嫌な感慨にふけりながら、彼女は背筋を伸ばして首を振った。

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