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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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…自分とは違う生き方を見つけ出した、娘の明日を、見守っていてもらうためにも。

「……ありがとう、父さん、母さん」
殆ど他人に見せない笑顔を浮かべて、京子は部屋を出た。

────

「そっか、よかったな」
「うん、あの、兄さん」
「ん?」
「ありがとう……」
浩一郎に向けて礼をした彼女を見て、玄関から出た浩一郎は少し困ったように頬を掻いた。

「礼を言われるようなことは何もないさ。明日奈は明日奈の手に入れたもので、母さんに気持ちを伝えたんだ。俺は何もしてない」
「……でも……」
「それよりも、学校の友達にちゃんと事のいきさつを伝えてやるといい、ほら、早くいかないと、電車が出るだろ?」
笑って言った浩一郎の言葉に、明日奈の頭の中にキリトやユウキ、リズやシリカ、サチの顔が次々に思い浮かぶ。そして最後に……

「……ねぇ、兄さん」
「ん?」
車に乗ろうとしていた兄を呼び止めて、明日奈は少しだけ神妙な面持ちで胸の前に手を握った。

「昨日言ってた……失う覚悟、って話だけど」
「……?あぁ」
「……あれって、もし本当に目の前に明日死ぬかもしれない人がいるなら、どうしたらいいと思う……?」
唐突な問いだったと思う、朝の出がけにするような話ではないとも、思った。けれど、問わずにいられなかった。何故なら昨日聞いた兄の言う覚悟はきっと、“涼人が言っていたもの”と近いような気がしたから。
幸いにも、というべきか、浩一郎は明日奈の言葉を聞き流すでもなく跳ねのけるでもなく、至極真剣に受け止めてくれた。

「……そう言う人に、心あたりが?」
「それは…………」
そうだと、いうことはできなかった。けれどその答えに沈黙を選んだ時点で、それは肯定しているのと同じことだ。

「……勿論、絶対に持つべきだ、とは言わないよ。そういう人の前なら特に、そんな事を考えたくも無い物だろうからな。……けど……」
「……けど?」
「……もし明日奈の知り合いに“そういう人”がいるんだとしたら、俺はその覚悟を、持っていてほしいと思うだろうな……」
「……それは、どうして?」
「それは……」
首を傾げた明日奈に、浩一郎は自嘲するような、あるいは言いにくいような表情で頬を掻いた。

「大事な妹に、傷付いてほしくないからさ」

────

表門を出て、振り返る。
昨日まであんなにも嫌だった自宅の外見を、今はそれほど嫌悪感なく見ることができるようになっていた。
自分の中にあった障害の一つは、大切な友人と、兄や祖母、祖父のおかげで乗り越えることが出来た。だが、まだ明日奈の中にある問題が全て解決したわけではない。次は、すっかり苦手心が出始めてしまった、あの青年と、そして、自らの親友と向き合わねばならないのだ。

「……行ってきま
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