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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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覚した。感じた暖かさが、胸へと届き、それが苦しいほどの何かとなって体の中で大きくなっていく。

それでも、結城京子はそれを抑える術を知っていた。これまでの人生を歩む中で、何度そんな風に嗚咽を漏らしたくなっても、それを押し殺し、耐え抜き、自分を強くしてきたのだ。だから……

「────」
「……っ」
そう、そうしていつものようにその気持ちを抑えようとしたから……明日奈が息を漏らすその瞬間まで、自分が涙を流していることに気が付くことが出来なかった。

「ちょっと、なによ、これ……私は別に、泣いてなんか……」
慌てて頬をぬぐうが、涙は止まる気配を見せない、今まで自分の意思でいくらでも抑え込めていたはずの(よわさ)が、寄りにもよって娘の前で、いくつもの滴となって零れ落ちて行く。

「……母さん、この世界では、涙は隠せないのよ、泣きたくなったら……誰も我慢できないの」
「不便なところね……っ」
明日奈の言葉に吐き捨てるように言って、そうして数秒の後、耐え切れずに、目をこするのをやめて顔を覆い、嗚咽が漏れ始めた。

────

翌朝。兄である浩一郎と珍しく一緒に食卓に着いた明日奈はいつもより覇気のある声であいさつをしてきた。浩一郎の声にもいつもよりハリがあり、どうやらこの二人の間にあったわだかまりが解けたようだった。

食事が終わり、京子は先に浩一郎が席を立つのを待って明日奈を見た。一瞬だけ浩一郎は二人に向けて振り返ったが、何も言うことなくただ明日奈に微笑みかけて食堂を後にする。どこか恐れるような、けれど強い意志の気配を感じさせるその瞳を真っすぐに見つめながら、京子は一言問うた。

「貴女には、誰かを一生支えて行くだけの覚悟があるのね?」
一瞬呆けたように固まった明日菜は、その後慌てたようにうなづいた。

「う、うん」
「そう……でも、誰かを支えるためには、まず自分が強くなければ駄目なのよ。だから、大学にはきちんと行きなさい。そのためにも、三学期は今まで以上の成績を取ることね
「えっ……?……母さん、じゃあ……転校は……」
「言ったでしょう。成績次第よ」
それだけ言って立ち上がり、京子は食堂を出ていく。最後に一言。

「頑張るのね」
とだけ、一言を残して。少し足早になってしまったのは、急いでいるからだ。

「…………」
廊下にでて、直後に少しだけ嘆息する。自分の書斎に戻り資料を取り出し終えると、ふと机の上に目が行った。昨日あの後、何となしに出した自分の経った一冊だけのこったアルバムに挟んであった両親との写真。それを写真立てに居れたものが、そこにはある。こういう物は正直あまり趣味ではなかったのだが……それでも今は、ちゃんと置いておこうと思えた。
結城京子という人間の、原点を覚えておくためにも、そして…
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