MR編
百四十二話 向き合う覚悟、失う覚悟
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「それで、母さんにはちゃんと連絡入れたのか?」
「えーっと、家のサーバーあてにメールで……」
「おいおい、それじゃ電話来ただろう?」
「いろいろあって、携帯をネットにつなぎっぱなしにしてたから」
「……なるほど」
なかなかやるな、などと小さく笑って車を運転するのは、明日奈の兄、結城浩一郎である。二人の父である彰三と同じ総合電機企業、レクトに務める浩一郎は、会社では技術開発部に所属し、社内での実績も着実に上げ始めている若手ホープ、まさしく母である京子が描く理想の我が子だということは、正月の親戚内の話合いで嫌と言うほど知っている。
そういう兄だから、なのだろうか……もちろん、それらの実績は兄自身の努力と研鑽のせいかなのであって、彼に何か非があるわけではないのだが……母の理想の権化のように思える彼を、明日奈は少しだけ苦手としていた。
理不尽だとわかってはいるのだが……
「最近、色々母さんとぶつかってるみたいだな」
「え?どうして……」
「母さん何も言わないけど、ちょっとご機嫌斜めなのは分かったしな……お前もここのとこ母さんと顔合わせたくないみたいだったから。まぁ、見てると自然と分かるよ」
「ぅ……ごめんなさい」
若干しりすぼみに、アスナは答えた。ユウキと話してから、今日の内に京子と話しておかなければと決意してはいる、いるが、兄の言葉に自分が家族に迷惑をかけているような気がして、言葉に詰まった。
「まぁ、俺は母さんとあまりぶつからないからあれだけど、話すなら上手くやるんだぞ。あの人、頑なになると聞いてくれないから」
「えっ?」
苦笑しながら言った兄の言葉をアスナは意外そうに聞き返した。
「…………」
「?どうした?」
「ううん、ただ、兄さんは母さんの味方だと思ってたから……」
彼の言う通り、母、京子と浩一郎が衝突しているところを明日奈はあまり見たことが無い。それ故、浩一郎の意見は京子と同じところを行くと思っていたのだが……
「味方も何もないだろう、そもそも、母さんとぶつからないのはあんまりあの人と論戦するのが疲れるからだしなぁ、ウチは女性陣が強いから」
「そうなん……ちょっとそれ私のことも入ってるの?」
「いやぁ、明日奈も相当だとおもうんだが……」
「私、母さんほど頑なじゃないし、厳しくありません!」
失礼な、と言った様子で拗ねたように言う明日奈に、朗らかに笑った浩一郎を見て、明日奈は自然と、穏やかな微笑を浮かべた。
「……なんか、兄さんとこんな風に話すの、久しぶり」
「……そうだな……」
彼女の言葉にどこか感慨深そうに返した浩一郎もまた、運転しながら遠くを見るような顔をする。最近ではあまり家に居つかなくなってしまった彼のこんな表情を見るのも、随分と久しいような気がした。
不意に。見つめてい
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