第百七話
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「いらっしゃいませー……ってアスナか」
「こんにちは、リズ」
いつものリズ……たちの自慢の店で。一般的に休日ということもあってか、最近ちょっと忙しかったらしいアスナが、久々に顔を出してきていた。
「どう? 家の方は」
「一応片付いた……のかな」
店番を店員NPCに任せると、世間話でもしながらアスナを工房の方に案内する。至極普通な家庭であるリズには、まるで分からない世界だったが、とにかく親戚付き合いなど色々あるらしい。
「それじゃあ今日は、久々にストレス解消出来るんじゃない? バーサクヒーラーさん」
「……もう! やめてってば」
そんなこんなで工房の空いたスペースでコーヒーを出しつつ、かのフロアボス攻略戦で一躍その名を轟かせた、アスナの新たな名を呼んだ。本人からすれば当然嫌なものらしく、即座に否定が入る。……ともに攻略戦に参加したリズとしては、まるで間違っていないと思うわけだが。
何にせよアルヴヘイム・オンライン――ALOの世界は、相も変わらず慌ただしいものの、特に変わった様子はなく。プレイヤーたちは、勢力図を塗り替えたギルド《シャムロック》の台頭やアインクラッドの新階層にも慣れ、軋轢などもなくなりいつものゲームを過ごしていた。
「今日は何の用なのかな」
「さあ? あの子の考えてることはイマイチ分かんないわ」
しかしてアスナは、そんな世間話をするために来たわけではなく。今日はユウキのたっての頼みにより、来れるメンバーは全員この《リズベット武具店》に集まることとなっていた。用件は集まってから話す、とのことで聞いてはいないが……彼女にしては真剣な様子で。
「ま、すぐに分かるでしょ。……それより、アスナ」
「なに?」
彼が作り置きしているコーヒーを口にしながら、リズは真剣な口調でアスナに語りかけた。それに気づいたアスナは――むしろどこか、怯えた様子でいて。
「あんた、さっき家のことは片付いたって言ってたけど……まだ何か、残ってるんじゃないの?」
ただの勘だけどさ――とリズは言葉を続けながら。先程のアスナの表情からそう感じたものの、その勘は正しかったらしく……その水色の髪から覗く彼女の顔に、少しだが隠しきれない陰が差した。
「ま。プライベートなことだし、言いたくないならいいけど……相談ぐらいなら、乗ってあげられるわよ?」
「……うん。ありがとう、リズ」
コーヒーカップを机の上に置きながら、しっかりと顔を見て話しかけてくるリズに、アスナは安心したように微笑んだ。それでもあまり好き好んで話したくはないようだったが、訥々とアスナは語り始めていき、思ったよりも重大な出来事にリズは腰を抜かす出来事となった。
「転校するぅ!?」
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