第百七話
[2/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「うん……まだ決定じゃないんだけど、母がそう言ってて……」
なんと実の母に、転校の打診を受けたのだという。確かに言われてみれば、アスナの実家はリズでも知っているような優良企業で、そういう話もあるだろうな――とリズは納得する。とはいえアスナがそれを納得出来る筈もなく、憮然とした表情を隠さずにいた。
「……あの人は自分の世間体が気になるのよ」
「こら。悪いけどあの学校にいるなんて、親なら心配するに決まってるでしょうが」
SAO事件に巻き込まれた児童たちの学習施設――と言えば聞こえはいいが、実際には危険な児童たちをまとめて監視する施設と同じだ。それは他ならぬ生徒であるリズが一番感じていることでもあるし、彼女本人も、それとなく親や友人から心配されたこともある。優良企業の社長夫人だろうが何だろうが、その行動自体は親ならば当たり前のことだろう。
「でも……」
……そんな簡単なことが分からないほどに、アスナは人一倍にVR空間やあの浮遊城、向こうで得た友人達への思い入れが強いのだ。そして不幸なことに、あの生還者学校から抜けだす知性と資金と地位を、アスナは望むことなく備えている。
「うーん……ちなみに、キリトにはそのことは言ったわけ?」
こう見えてアスナは頑固だ。それをよく知っているリズは、困ったように髪を掻く――手を無理やり止めながら、アスナには切っても切り離せない彼のことを聞く。どうせ言ってないでしょうけど、と思いながらも。
「ダ、ダメだよ! キリトくんにこんなこと……言えない!」
「アスナ……?」
しかしてアスナの口から放たれたのは、想像以上に荒げられた言葉だった。まさかここまで、強く否定されるとは思っていなかったリズは、驚きに目をぱちくりとさせてしまう。
「……ごめん」
「……ほら、コーヒー冷めちゃうわよ。で、どうして言っちゃいけないわけ? 一緒に悩んでくれそうじゃない」
自分でも急に叫んでしまったことに気づいたらしく、アスナがばつの悪そうに謝罪する。そんな彼女を落ち着かせるようにコーヒーを勧めながら、リズ本人もあおるように飲んでみせると、すぐさまカップの中が空になってしまっていた。
「……キリトくんが好きな私は、強い私だから」
そんなリズの様子を見て笑いながら、コーヒーを優雅に飲んでみせて――こんな細かい動作でもリズは少し敗北感を感じざるを得ない――アスナは少し落ち着いたように、静かな口調でそう言ってのけた。
「だから……弱い私は、あんまりキリトくんに見せたくないの」
「…………」
――そんなこと構わずあんたにベタ惚れなのくらい、キリト見りゃ分かんでしょうが! ……と、叫びそうになった衝動を、すんでのところでリズは抑える。思うさま言
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ