暁 〜小説投稿サイト〜
仮面ライター
第1話Aパート
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 輝く市街。その明るいビルたちは各々が街行く人を眩ませるが、その間や裏は暗く影に閉ざされている。
 その一角にカップルが迷い込んでいた。
「ねぇ、こんなところに連れてきてどうするつもり?」
 女は少し不安ながらも、それ以上の期待が胸を包んでいた。
 相手の男は彼女を行き止まりの壁に背を付けさせると、その顔の横に平手を押し付け、彼の生み出す影が彼女を包む。
 俗に言う『壁ドン』というものだろうか。
目の前で目を輝かせる女の期待に応えるかのように、男は顔を近づけると共にマスクを少しずつ剥がしていく。
 マスクが剥がれていくと、紅かった女の頬は徐々に元の肌の色へと戻りやがて青ざめていった。
「な、何よそれ……?」
 男にはマスクの下にあるはずのパーツ。口がないのである。
 女は逃げようにもその背中はぴったりと壁に張り付いており、その間にも口のない顔はどんどん近づいてくる。
女は極限まで高まった恐怖の末に、相手になくて自分にはあるそれを開いた。

 耳の中に突如として大音量が流れこんでくる。
 布団の中から右手を出し、枕元をしばらく手探りで動かしリモコンを掴む。
 そのまま親指で音量ボタンの下を長押しして、テレビを沈静化させた。
 しばしの静寂の後、今度は机の上の携帯電話がこれまた大声でプリセットのアラーム音で叫ぶ。
 こればかりは手を出すだけでは届かない場所にあるので、仕方なく上半身を布団から出して手に取った。
 開いて真ん中の大きなボタンを押してアラームを止めると、そのまま「あーぁ」と間抜けな声を上げながら両腕を伸ばし、目を開けた。
 これが門司刻のいつもの起床風景である。
先ほどまでのゆったりとした動きとはうってかわってスクっと立ち上がるも、やはりふらついた動きで洗面台に向かった。
 ばしゃりと顔に水をぶつけた後、冷蔵庫を開けて中に入っていたチューブパックのヨーグルトを口に咥え、そのままテレビを見ながら服を脱ぎ始める。
 布団の横に積まれた服の中から適当なものを摘んで着ると、鞄に携帯を放り込み、テレビを消した。

ドアを開けてアパートの階段を数段降りると、秋の風がぴゅうと吹きつけて思わずブルッと震える。
 コートを取りに戻ろうかと悩むがいちいち戻るのが億劫なので、と金曜日ながら早くも 憂鬱な気分になるのだった。
 しばらく歩いていたが、T字路の前で足が止まった。
(確かここは最近うるさい犬を飼っている家が越してきたな……)
 大学へのアクセスとしてはこの道を真っ直ぐ行く方が近い。もしかしたら犬は寝ているかもしれない。
 だが、今の自分にそんな実験をするほどの心の余裕がないことを知っていたので門司は角を右に曲がった。
 その時だった。出会い頭に走ってきた人にぶつかった。
 門司はやや強く尻餅をついたが
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