夏休みT
第三話
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それと同時に、炎も姿を消す。少女には危害を加えられないと感じたのだろう。
「今宵の実験は終わりですよ、エーリゲネーア」
「……はい、神父様」
エーリゲネーアと呼ばれた藍色の髪の少女が、静かに瞳を閉じた。
彼女は抑揚のない人工的な声で告げる。
「命令受諾。執行せよ、“黎明の羽根”」
その声が終わると同時、彼女の衣服を突き破る様に何かが迸った。
それは灰白く輝く翼だった。少女の細い身体よりも巨大な片羽の翼だ。
彼女の下腹部を突き破るようにして伸びったその翼が、生きた蛇の様に近くにいた男を貫いた。
男が苦悶に呻き、声を上げる。手から刀が滑り落ちる。
赤い液体が地面に滴り、大きく血溜まりを作る。
身体の内蔵をやられてはいるものの、貫通はしていない。
今ならまだ救出は可能だ。銃を携えて、弾丸と、極大の炎を吐き出す。
その翼は突き刺した男を荒々しく投げ捨て、銃弾と異能を弾き飛ばす。
そして腕の様に動き、標的を変えてもう一人の男へと伸びる。
回避行動を取ろうとするが、その行動を起こす事が出来ない。
神父の男が指を振るうと、武偵の男の身体が自然と巨大な腕の方へと赴く。
「殺す価値はない。けれど、此処で見られた事を見過ごす事も出来ませんしねぇ。何よりも、ヘーオスの腹の足し位にはなるでしょう。…エーリゲネーア、彼に裁きを」
その腕が男の身体を捕らえる。神父が藍色の髪の少女にそう無情に告げる。
少女が、淡い藍色の瞳で男を見た。ひどく物憂げにその瞳を伏せて、彼女は唇を震わせた。
「―――命令受諾」
灰白く輝く巨大な翼が、悪意を持つ獣の様に蠢いた。
夜の公園に、男の絶叫が響き渡る。
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