あくる日の黄昏
第一話
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。“機械水晶”。
自身のサポートを主とする、小規模ながら膨大な知識を司る、自我を持った女性のAIユニット。
「そうだな、早く帰って鍛錬にしようか“イリス”」
傍から見れば、見えない何かと会話をする痛い子に見えるだろう。だが、その点は抜かりはない。
マナによる術式のおかげで、周囲には違和感の無い様に見えている。
これで、不審に見られる心配はない。
機械水晶―――イリスと軽い雑談に興じながら、時夜は何時もの様に家へと到達した。
2
「…………」
自宅の庭先。
煌々と夕日の光を乱反射して黄金色に輝く芝の上、そこに俺は存在していた。
瞳を閉じて、精神を集中する。
雨続きであった気が滅入っていた梅雨も明けて、涼やかな風に乗って、蝉の音が何処か遠くから霞んで聞こえてくる。
そうして右手に時切を携え、左手には刃の存在しない柄だけを持っている。
「―――イリス、刀身構築」
淡々と、そう首元に掛けられた機械水晶に呼び掛ける。
それに呼応するかの様に、微弱ながらも光を発する。
『対マナ存在に設定を変更します。銀単子を核に固定。所持者のマナをオーラフォトンに転換、コーティング。破壊限界を八倍に設定します』
イリスの声が空間に浸透する。それと同時。
刀身のない柄から銀の筋が伸び、輝くオーラフォトンがその細い線を覆う様に刀身を形成して行く。
両刃で細身の刀身。
自分の身体骨格や歩幅等が計算されて生み出された、自身にとって丁度いい長さの刀剣だ。
刀身が完成される。それと同時、世界にマナが浸透して行くのを感じ取る。
一瞬、世界が灰色に染まる。
その数瞬後、世界は再び何事もなかった様に色を取り戻す。
『時夜、“箱庭”の術式の構築が完成したわ』
これで、今“俺達が存在している世界”は俺の管理下に置かれた。
そんな静寂の世界の中、時切の声に俺は右手の短刀と、左手の両刃中剣を構える。
―――神剣術式・箱庭、俺が考案した神剣魔法。
自身から半径数百メートルをエリアサーチして世界の構築情報を得る。
それを元に範囲内のあらゆる物をコピーした贋作の世界を疑似的に作り出す時属性の神剣魔法。
―――すっ。
構えた右手の双刀、それで梅雨で出来た足元に出来た水溜まりを刺し突く。
そこに“波紋は存在しなかった”。
音も波紋もなく剣先が水面を貫き進んでいく。
水面を割るのではなく、弾くのでもなく、水面のごく微細な張力ごと粒子を切断する超精緻の技量。
そこから下から跳ね上げる様に刀身を上に切り払う。
やはり、そこには波紋は存在しない。水飛沫も飛び散る事はない。
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