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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十一話 暗雲(その2)
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イト少将」
案の定、周囲から溜息が漏れた。気持ちは判る、私も溜息を吐きたい。
「駄目だ、あの男に指揮などできん。勝ってる戦いも逆転負けするぞ」
クレメンツが吐き捨てるように言った。
「メックリンガー、卿が指揮を取れんのか?」
「無理だ。新任参謀の私では、周囲が納得しない」
クレメンツ、無理を言うな。私が新規編成の二個艦隊のパイプ役だということを司令部の参謀たちは知っている。
彼らは私たちを胡散臭く見ているのだ。ヴァレンシュタイン中将が後ろにいると知っているから露骨には態度に表さない。態度に出すのはシュターデンだけだ。そんなシュターデンでもヴァレンシュタイン中将の前では大人しくしている。
「ヴァレンシュタイン中将、中将が参謀として遠征に同行することは出来ませんか。閣下なら司令部を抑える事が出来るでしょう。我々も安心して戦える」
ケンプ少将が訴えるように言う。ヴァレンシュタイン中将は苦しげな表情だ。
「それは駄目だ、ケンプ提督。中将はオーディンにいなければならん。万一の場合、内乱になるだろう。そうなれば戦争に負けるどころではない」
ケスラー少将がケンプ少将に答えると周囲から“うーん”、“どうすれば”等の声が上がった。
ミュッケンベルガー元帥が発作に倒れた時から私たちは地獄に落とされるだろう。指揮権を委譲すれば艦隊全体に混乱が生じる。委譲しなければ、艦隊全体の指揮統率は滅茶苦茶なものに成る……。
八方塞だ。圧倒的に優勢だと思っていた。今度こそ反乱軍に致命的な一撃を与える事が出来ると信じていた。しかし、こんなところに落とし穴があるとは……。綱渡りだ。渡り切れば私たちは勝てる。しかし落ちれば敗北が待っている……。
「一つだけ手があります。兵の士気を落とさず、指揮を混乱させない方法が」
救われたように発言者を見る。私たちを助けてくれるのは、やはりヴァレンシュタイン中将だった。
「それは」
「ただ、あまり褒められた手ではありません。シュターデン中将は怒るでしょうね、ミューゼル提督も不満に思うかも知れない」
ヴァレンシュタイン中将はやるせなさそうにつぶやいた。彼自身不本意な策なのかもしれない……。
「ヴァレンシュタイン中将、それは一体」
「それは……」
ビッテンフェルト少将の急かすような問いにヴァレンシュタイン中将は答え始めた。彼の話が進むに連れ、私たちの間で驚きと困惑の声が上がり始めた……。
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