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油断したら
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第一章

                    油断したら
 マーガレットは最初こう思っていた。もう喧騒はないのだと。
 彼女の生まれはシドニーだった。オーストラリアの経済の中心地であり当然ながら栄えている。しかし彼女にとってその繁栄は喧騒でしかなかったのだ。
「もううんざりよ」
 ハイスクールの時にはもうこんなことをいつも漏らしていた。
「こんな騒がしい街。おまけにあちこちに危険があるし」
「危険って?」
「車は多いし犯罪者はいるし」
 いつもこう女友達に漏らしていた。
「事故も多いし。一時も油断できないじゃない」
「考え過ぎじゃないの?」
「ねえ」
 ところが友人達は誰もそう思っていなかった。呑気に彼女の言葉を聞くだけだった。
「幾ら何でもそこまで危なくないし」
「確かに色々な人達がいるけれど」
「合わないのよ、結局のところは」
 マーガレットは溜息と共にここでこう言った。
「都会暮らしがね」
「じゃあ田舎に行くってこと?」
「本気で考えてるわ」
 溜息を出したその口での言葉だった。
「何処かね。いい場所を見つけて」
「だったらすぐ見つかるわよね」
「ねえ」
 友人達はそれを聞いて顔を見合わせて話すのだった。
「田舎なんてこの国じゃね」
「すぐに見つかるわよ」
「そうね。もうちょっと車で出たらね」
 オーストラリアはあまりにも広い。その為少し車で街を出るとそこにはもう果てしない草原や砂漠が広がっている。そうした国なのだ。
「牧場にでも行ってみようかしら」
「いいんじゃない?それじゃあ」
「牧場で羊の毛でも刈ったら?」
「そうね」
 友人達の言葉に頷くのだった。
「羊の毛をね。バリカンで刈って一日を過ごすのもいいわね」
「そうじゃない時は放牧してね」
「都会が合わないんだったらね」
「わかったわ。じゃあ少し旅に出てみるわ」
 それから彼女は時間があるとオーストラリアのあちこちをバイクで回った。まだ車の免許を取れない年齢だったのでバイクだった。やがて車の免許を取ると今度は車で回った。そうしてハイスクールを卒業すると同時に北東部にあるある牧場に住み込みで働くことになった。そこに入ると。
「おやおや、これはまたいい娘さんだね」
「シドニーから来たんだよね」
「そうよ」
 そこにいる村人達に笑顔で応える。
「もう街には嫌気がさしたし」
「シドニーは嫌だったのかい」
「ええ。都会よりこうした静かな場所で暮らしたいと思って」
 考えていたことをそのまま述べるのだった。
「それでここに来たのよ」
「いいんじゃねえか?それも」
「人間向き不向きってあるからな」
「なあ」
 彼等は笑顔で答えるのだった。
「ここが合うんだったらここにいな」
「ずっとでもいいからな
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