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変装の果てに
3部分:第三章
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第三章

 それで彼のところには毎日ひっきりなしに変装を御願いする人が来た。それこそ一日に何度も何度も変装する。その都度違う顔にだ。
 それで収入はかなりのものになり地元のテレビ局からも仕事の依頼が来たりした。そんなことが続いていた。
 しかしであった。ここでだ。
 彼はふと気付いたのだった。それを行きつけの屋台のラーメン屋でこぼした。
「そういえば」
「どうしたんだい?急に」
「いえ、あのですね」
 親父の言葉に応える。話をしながらラーメンを食べる。九州のそれらしく白い豚骨スープである。その中に細い麺が豪快なまでに多量に入れられている。
 ゴマや紅生姜も入っているそのラーメンを食べながらだ。彼は言うのだった。
「最近変装関係の仕事が多くて」
「そうだね、確かにね」
「それでなんですけれど」
「随分稼いでるじゃないか」
 親父は笑顔でこう言ってきた。
「働いてね。いいことじゃないか」
「いや、それはいいんですよ」
 そのことは問題ではないというのだった。
「ただ」
「ただ。何だい?」
「どうもね。最近色々な人に変装していて」
「それがどうかしたのかい?」
「顔がわからなくなってきたんですよ」
 そうなってきたというのだった。
「どうもね」
「わからなくなってきたって?」
「自分の顔がね」
「おいおい、自分の顔がわからなくなってきたっていうのかい」
「そうなんですよ」
 首を傾げながら話した。
「他の顔になり過ぎて」
「おかしなことを言うな、あんたも」
 親父はその彼にこう言うのだった。
「どうもね」
「おかしいですか」
「うん、あんた今はメイクをしていないだろ」
「はい」
 その通りだと返す。
「仕事はしていませんから、今は」
「じゃあ今の顔があんたの顔だよ」
「今の顔がですか」
「そうだよ、あんたの顔なんだよ」
「そうなんですかね」
「それ以外の何だってんだよ」
 親父は竜蔵にこうも話した。
「違うかい?」
「それはそうですけれどね」
「ちょっと考え過ぎじゃないかい?」
 親父はまた彼に話した。
「それはちょっと」
「はあ、そうなんでしょうか」
「そうだよ。そこまで考えるんだったらな」
「そこまで?」
「いっちょ顔を消してしまったらどうだい?」
 こう竜蔵に言った。
「顔をね」
「顔をですか」
「そうだよ。消してみたらどうだい?」
「顔を消すんですか」
「そう、消してみたらどうだい?」
 そしてだ。ある妖怪の名前を出すのだった。
「のっぺらぼうみたいにな」
「のっぺらぼうですか」
「ほら、怪談の」
 あのあまりにも有名な小泉八雲の作品の話も出て来た。
「こんな顔かい?っていうあれみたいに」
「ああいう感じで、ですか」

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