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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十話 暗雲(その1)
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です」
ヴァレンシュタイン中将が暗い笑みを浮かべて自嘲する。私は何も言う事が出来ない。ただ、彼の顔を黙ってみているだけだ。
「ある時期が来たら退役するつもりですが、そう遠い事ではないでしょう。私は未だ死にたくありません」
「……」
ヴァレンシュタイン中将はミューゼル提督を信じていない。
いやむしろ危険だと考えている。それが間違いだと言いきれるだろうか? 結局私がしようとしたことはなんだったのだろう。勘違いをした挙句、彼の心を傷つけただけか。 先程からの彼のやるせなげな表情が思い浮かぶ。
「他に何かお話がありますか?」
ヴァレンシュタイン中将の言葉に、われに返った。
「いえ、ありません」
「そうですか、ではこれで失礼しますが?」
「有難うございました」
ヴァレンシュタイン中将は席から立ち上がった後、少し考えてロイエンタール少将に話しかけた。
「ロイエンタール少将、あの件を気に病むのは止めて下さい。少将は軍人としての本分を尽くせば良いんです」
「……本分ですか」
「ええ。勝つことと部下を一人でも多く連れ帰ることです」
「……御教示有難うございます。本分を尽くす事に尽力しましょう」
言葉に力強さがある。あの事件以来鬱屈していた彼もようやく吹っ切れたようだ。ヴァレンシュタイン中将もそれを感じたのだろう。柔らかく微笑むと応接室を出て行った。
兵站統括部を出た後、ロイエンタール少将に気になったことを話してみた。
「ヴァレンシュタイン中将にとって今回の件は不本意だったと思うが」
「そうですね……。小官はあの艦隊は当初ミューゼル提督を排除するためのものだったと考えています」
「私もそう思う。しかし何らかの理由があってそれが出来なくなった。そしてミューゼル提督が宇宙艦隊副司令長官になる事になった。そういうことだろう」
一体何が有ったのか?
おそらく中将と元帥の間で何らかの話し合いが有ったに違いない。中将はミューゼル提督を排除しようとしたが、元帥はミューゼル提督を宇宙艦隊副司令長官にと考えた。そして中将もそれに従った、そういうことだろう。
「ミューゼル提督の指揮下に入るとはどういうことでしょう? ミュッケンベルガー元帥の指揮下から外れると言う事でしょうか」
「……その辺もよくわからない」
元帥との話し合いの中でそれも決まったのだろう。しかし一体何故?
「中将はいずれ退役すると言っていましたが?」
「……」
「どう思います」
「難しいだろうな、周囲がそれを許すだろうか?」
幸か不幸か、彼は大きすぎる。彼個人の思いで行動できるほど、自由が有るだろうか? 公人としての立場がそれを許さないのではないだろうか。
■ 宇宙暦795年10月5日 自由惑星同盟
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