第176話 荊州の新たな主 後編
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思いました。父も母も、張允殿が助命されたからこそ、私の提案に納得してくれました」
紗耶夏は着物の裾で涙を拭いていた。
「傷が治せるとは限らないかもしれなかったのだぞ?」
「そうであったとしても、命は助かったはずです。貴方様は私と父を救ってくださいました。貴方様は噂通りの御方です。それに生きていれば良いことはきっとあります。私は父にも生きて欲しかったですから」
黄月英は屈託のない笑顔で正宗に答えた。その表情から悪意は一切感じられ無かった。
「黄月英。全て話してくれてありがとう。お前達の傷は私が責任を持って治療させていただこう。ただし、お前達には約束して欲しいことがある。お前達が荊州を離れるまでは傷が直ったことは伏せておくように。無用な嫌疑を他の者から受けぬようにだ。出来きるか?」
正宗の言葉を聞いた紗耶夏は瞳に涙を溜めて口元を服の裾で覆った。
「その程度の苦労は問題ではありません」
正宗は蔡永文と黄月英の治療を行った。二人の傷は無事に元通り治った。腱を切断した傷の跡も綺麗に消えていた。紗耶夏は感極まったのか二人と抱き合っていた。紗耶夏の抱擁を受けていた蔡永文と黄月英は正宗の元に進み出た。
「お礼の言いようもございません」
「本当に凄いですっ! どのような仕組みで傷が治ったのでしょうか?」
黄月英は正宗の力に興奮している様子だった。
「青葉、車騎将軍に無礼ですよ! 佇まいを正しなさい」
紗耶夏は息子を叱咤した。黄月英は我に返り、正宗に対して平伏した。紗耶夏も正宗に近づき両膝を着き拱手した。
「あまりの驚きで気持ちが高ぶってしまいました。恥ずかしいものをお見せして申し訳ございませんでした」
黄月英は深く頭を下げて正宗に謝罪した。正宗は屈託なく笑った。
「よい。よい。月英、お前の機転が父を救ったのだ。そして、永文。良い息子を持ったな。月英を見れば、お前の人柄が分かる」
「お褒めいただき感謝いたします。再び妻と息子の顔を見れたこと、全て車騎将軍のおかげでございます。この御恩は終生忘れません」
蔡永文は正宗に低身抵当頭を下げ礼を述べた。彼からは悪意を感じることはなかった。心の底から正宗に感謝しているようだった。
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