第176話 荊州の新たな主 後編
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月英は顔を上げ正宗に答えた。瞳は閉じられたままだった。正宗はしばし彼の顔を見て、目を伏せた。目が見えないことを確認できたのだろう。
「では、機会があれば何か作ってもらえるかな」
「目が見えぬ身ではもう無理でしょう」
黄月英はあっけらかんと苦笑いをし正宗に言った。
「その目と足は、私への恭順の意として、お前が母に申し出て行わせたそうだな」
正宗は真剣な表情で黄月英を見た。
「その通りです」
黄月英も先ほどと違い真剣な表情だった。彼も正宗の声音の変化を感じ取ったのだろう。
「どうして、それで命が助かると思ったのだ?」
「車騎将軍の噂は荊州にも広がっております。華北の黄巾の乱を平定し、異民族達を服従させた武威。敵であった異民族達にすら情けをかけられる慈悲深さ。噂は大抵尾ひれがつくもの。確証はありませんでした。車騎将軍がお触れを出された時、先の噂が確信へと変わりました。慈悲に縋れば三族皆殺しの条理から見逃してくださると思いました」
黄月英は穏やかな表情で正宗に言った。
「それを他の蔡一族達には教えなかったのか?」
「私の言葉に耳を傾ける蔡一族がどれ程いたでしょうか。手紙を出して知らせは致しましたが、彼らは理解はしたものの行動にうつせなかったのではないでしょうか? これは致し方の無きことでありましょう。それについて私は確信しました」
黄月英は自嘲した笑いを浮かべた、その表情は物憂げな表情に変わった。
「権力を持つ者は自らの手にある力を手放すことは容易なことではないでしょう。くだらない。本当にくだらない。父には悪いですが蔡一族は滅ぶべくして滅んだだけです」
彼なりに蔡一族を救おうと行動したのだろう。だが、それは徒労に終わった。
「もし、お前達二人の潰れた目と切れた足の腱を完全に治るといったら、お前は治療を望むか?」
正宗は黄月英を凝視した口を開いた。黄月英は「はい」と言い深く頷いた。その返事には澱みながった。彼は正宗の力に期待して、この行動を敢えて行った。だが、頭で理解できても出来るもではない。
「私の力に何故気づいた?」
「叔母上が張允殿の顔に一生消えぬ傷をつけ、車騎将軍への使者として刺客を伴い送り出したと聞きました。その話を伝え聞き、私は叔母上を見限りました。この人に付いていけば、私達家族に待つのは滅びの道だと思いました」
黄月英は父を余所に淡々と語りはじめた。蔡永文の様子から、この話は黄月英から既に聞かせされたことなのだろう。
「張允殿は誅殺されると思っていました。しかし、張允殿は殺されず助かりました。私の想像と裏腹に貴方様は刺客のみ誅殺し、張允殿を救い傷を治療し元通りにしたと聞きました。信じれませんでしたが、その噂を信じてみる価値があると
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