第176話 荊州の新たな主 後編
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
方なら、筋目を通し慈悲を請う者を斬ることは決して無いと。私と夫は息子の言葉にかけることにしました」
紗耶夏は当時のことを思い出したのか辛そうな表情を浮かべ視線を少し落とした。
「今思えば、息子の判断は間違っていなかったと確信できます」
紗耶夏は正宗の方を向いた。正宗は小さい声で「そうか」と答えた。
「黄月英。お前の息子は英明で胆力のある人物のようだな。会うのが楽しみだ」
正宗は紗耶夏から視線を正面に戻すと笑みを浮かべた。
紗耶夏は彼が自分の息子に興味を持ったと感じたのだろう。彼女は安堵している様子だった。彼女は息子の言葉を信じ行動に移したのは間違いないだろうが、内心は不安だったのだろう。
正宗達は一週間の道程で紗耶夏の屋敷についた。彼の屋敷は豪商の屋敷に相応しい広さだった。泉と蔡平は屋敷の周囲で警備の任についた。正宗は秋佳と伊斗香を連れ、紗耶夏の案内で彼女の屋敷に入ると突然犬が襲ってきた。
正宗は一瞬たじろぎ、伊斗香が正宗の前に出て、腰の剣を抜いた。秋佳はおどおどしていた。そこに慌てて侍女が現れ、犬の側で近寄ると、その身体を触っていた。すると犬は急に大人しくなった。
「この犬は息子が作ったものです」
「作った。だと」
正宗は困惑した顔でよく犬を見た。彼は犬の姿に違和感を感じたのか、伊斗香の前に進み出て犬の側に近づき、犬の身体を触りはじめた。
「正宗様、大丈夫でございますか?」
秋佳は正宗を心配そうな顔で見ていた。
「これは木で出来ているのか!?」
正宗は驚いた様子で言った。伊斗香も秋佳も正宗の言葉に興味を持ったのか犬に近づいた。
「これは実に木で出来ている」
伊斗香は感嘆しているようだった。
「息子は手先が器用でして」
「器用だけではここまでのものは作れんだろう」
正宗は木製の犬を凝視し、いろいろと触っていた。
「正宗様、このような場所では何でございます。奥へご案内させていただきます。この絡繰りは運ばせますので、後ほどゆっくりご覧くださいませ」
正宗は紗耶夏に案内され、屋敷の奥にある一室に通された。部屋に入ると二人の男が平伏して待っていた。二人とも質素な麻の衣服を身に纏っていた。だが、髪は綺麗に整えられていた。この二人が紗耶夏の夫・蔡氏、そして黄月英だろう。
正宗は二人の一瞥すると、部屋の奥に進んだ。正宗が用意された椅子に座ると、二人も顔を伏せたまま、正宗がいる方向にゆっくりと移動した。二人の動きが鈍かった。その様子を正宗は凝視していた。
「車騎将軍、拝謁の栄を賜り感謝いたします。親子共々助命いただき感謝のあまり、言葉もございません」
平伏したままの初老の男が頭を伏せてたまま正宗に礼を述べた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ