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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 13
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逸らす!?)

「……んー……まあ、な。それはよっぽど大丈夫だ。多分」
「いや、多分って何!? 全然大丈夫そうに思えないんだけど!? 何を根拠にそんな自信が!?」

 横方向にふよふよ泳ぐ新緑色の目が、ミートリッテの不安を一層深める。

 ヴェルディッヒ達の選択は、相手を高圧的に挑発したも同然の行為だ。
 今回は、海賊の狙いが『昔借りを作ったネアウィック村での指輪回収』にあったからまだ良いものの、普通に海賊として来ていたら、今頃村は手酷く荒らされてたんじゃないのか。
 そして、今からでもそうされる可能性がまったく無いとは言えないのに。

「奴らの頭がとにかく現実的で、行為を冒すリスクとそれで得られる結果を極めて冷静に(はかり)へ乗せられる型だから……か」
「言っちゃ悪いけど、小さな村の自警団と、まだ国境線を越えてくる権限を持ってない警備隊(ごと)きの、何が危険なの?」
「そっ……それは失礼な疑問だぞ、ミートリッテ! 俺達は毎日、真面目に鍛練を積んでるんだ! もうちょっとこう、尊敬とか信頼とかしてくれても良いじゃないか! とにかく、お前も用事が済んだらふらふらせず速やかに帰宅しろ! 解ったな!? じゃ、俺は仕事に戻るっ!!」
「ちょ……ヴェルディッヒ!?」

 半眼でじとーっと睨むミートリッテに、ヴェルディッヒは焦りを隠さず、顔ばかりか体まで反らし。
 突如、猛然と走って逃げた。

「……信頼も何も、余計なことをとしか思えないんだけどなあ。収拾能力に期待できるほどの実績も無いくせにハッタリなんかでやる気を倍増させて、本当に襲ってきたらどうすんのよ」

 しばらくの間、ミートリッテはその場で唖然と立ち尽くし。
 ヴェルディッヒの姿が見えなくなった頃、ハッと我に返った。
 気を持ち直す為、一旦深呼吸してから、軽く頭を振る。

(自警団や警備隊の考えは解った。詰めの甘さや不備が多そうだし、海賊が安い挑発に乗ってしまわないかは少し不安だけど、こっちの対海賊面には、常時注意を払わなくても良いかも知れない。対シャムロック面では引き続き用心しておこう)

 それより、今一番の課題は。

「あ。おはようございます、ミートリッテさん」
「……おはようございます、神父様」

 今日も絶好調な強風に曝され。
 軽い息苦しさの中で辿り着いた、教会のアプローチの、その中央。
 長い髪を首筋で一つに束ねたアーレストが、のんびり空を見上げていた。
 他に人影が無い。取り巻き不在……教会の中に居るのだろうか。
 ちょうど良い。

「あの。一つ良いですかね?」

 もう、礼儀正しい一般民の口調は投げ捨てた。
 アーレストにはタメ口でも良いくらいの心境だが。
 そこは年上相手。一応の体面は保つ。


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