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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 13
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めんね」
「ミートリッテ……」

 恐る恐る覗いた指の隙間で、可愛い愛娘が苦笑う。

 ハウィスは料理が下手なわけではない。
 ミートリッテほどではないが、そこそこ美味しい物を作れる。
 酒場の客に提供して喜ばれる程度には、味も香りも見た目も悪くない。
 ただ、極度に疲れていたり眠かったり考えごとに没頭していたりすると、手元が半端なく狂うのだ。
 砂糖と塩を取り違えるのは、その筆頭で。
 だから、砂糖を入れた容器と、塩を入れた容器の目立つ所に、疲れ目にもはっきり映る大きさで、それぞれの名前を書いておくようにした。
 七年経っても効き目はまったく無いようだが。

「でも、次はない。」

 刹那の鋭い眼光を受け。
 ハウィスの背中が、再び歪みない直線を描いて硬直する。

「キヲツケマス」
「うん。」

 ミートリッテは眉を限界まで寄せ。
 唇を山の形にして、死を覚悟したような……それでも生き抜くと決意したような複雑な表情で、甘くベッタリしたグリーンサラダと、ほんのり塩味のホットミルクと、黒焦げたトーストに向き合い。
 何一つ残さず、すべてを平らげた。

 食後。
 片付けを終えたミートリッテに、揃えた両手で胃薬を差し出すハウィス。
 腰を折り曲げている彼女の後頭部を無言で優しく撫でたミートリッテは、供物のように捧げられたそれを受け取り。
 水で飲み下し、丁寧に歯を磨き、家を出た。



「あうぅ〜〜。口の中がベタベタフェスティバルぅ……すっきりしないぃ。微妙に唇も痛いぃ……って、これは自己責任か」

 小道具入りのバッグを肩に掛けて。
 ここ最近では一番暑い陽射しの下を、てくてくと歩く。

「ハウィスのドジなんて、久しぶりに見たよ。うう、破壊的食感が歯先から抜けないぃ……」

 しかし。
 料理に対してぐちぐちと文句を言いながらも唇の端が上がっているのは、ハウィスのドジのおかげだった。
 振り払おうとしても頭の片隅に居座り続けた嫌な想像図が、たった一口で異世界へ放り出されたのだ。向こうに行ったきりで戻ってこなかったのは、ミートリッテにはもちろん、直前までさりげなくこちらの様子を窺っていたハウィスにも都合が良かった。
 いっそ、そのまま、どこにあるのかも知れない『はらほろひれはれ村』に永住してくれれば良い。
 あんな思いに苛まれるのは、もう御免だ。

(……忙しかった、か。それだけ酒場に人が集まってたのよね? もしかして深夜のうちに動いてたのかな、自警団)

 村の変化に気を配りながら、ゆっくり歩く。
 ピッシュ同様、仕事を休みにした職場が多いのだろうか?
 住宅区からは出ようとしないが、老若男(いや、女は少ない)、いろんな人間が動き回っている。
 東寄りの崖付近に
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