第3章 リーザス陥落
第89話 想定外の敗戦?
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時代の流れを――いま、トーマは感じていた。
場に流れる風。吹き抜ける風が、頬を撫でる。ゆっくりと、まるで小さな地鳴りの様に、微かに聞こえてくる大地の脈動。
――時代の流れに身に任せて、ただ真っ直ぐに進む。
それは、ハンティが言っていた言葉。彼女も、ユーリと出会って想う所があったのだろう、とトーマは感じていた。幾年月、生きてきたハンティに言わせる何かを、持っているのだという事は、ハンティの言葉を訊いて、よく判った。直に接して、更にによく判った
『――――ッ』
ゆっくりと、身体を動かそうとした時、トーマの身体に気怠さが生まれる。僅かに目眩もし、咳き込む。
ガイヤスやサレ、仲間達には気づかれてない様だったが……。
『やはり、な』
『………』
ロゼが帰った代わりに来ていたのはユーリだった。彼には気づかれてしまった。
いや、薄々は気づいていた。戦っていたからこそ、間近でトーマと接していたからこそ。戦いこそが至高のコミュニケーション、と称する程だからこそ、気づいた様だ。
トーマの身体の事を――。
『戦闘中も、所々だが、確かに何処か動きがおかしかった。……病持ち、だったか。トーマ』
『………黙しても、無駄な様だな』
トーマは観念した様に、ゆっくりと首を横に振った。
それを見て、間違いないと言う事を悟るユーリ。
『……全力、本調子のトーマと戦いたかった、と言う不満は残るがな』
『儂は、ユーリ。主と同じ時代に生まれたかった。主と肩を並べ、研鑽を積みたかった、と思う』
軽く嘲笑し合う2人。
ハンティの時同様に、戦いの中で芽生えた縁……絆が彼らの中で出来つつある様だった。
そして、トーマの身体について、それとなく聞いたユーリはため息を吐いた。
『……そんな状態で、あれだけ戦える、と言うのか。……全盛期を考えたら、末恐ろしく感じるよ。やはり、まだまだ、だな』
この手に残る痺れ。
弾かれた時に、身体の髄にまで響いたトーマの一撃を思い出しながら、ユーリは呟いた。
トーマの病魔は、身体の中を。……肺を蝕み、更に他の臓器にも影響を及ぼしているらしい。《労血咳》と呼ばれる病気であり、《ゲンフルエンザ》や《緑化病》に並んで、不死とされる病だった。時には血を吐きながら咳き込み、代謝機能が少なからずおかしくなり、手足の末端に痺れ、鈍い痛みも時折起こりうる。
一瞬の反応の遅れが、判断の不足、遅れが致命的だと言える戦場で。……戦いに身を置く者であれば、最悪の病の1つだと言えるだろう。
『病魔を理由に言い訳はせん。儂の負けは負けだ。……例え、全盛期であっても判らんものだ。――それに、戦いの最中では、病の影響なぞ気合でねじ伏せておるわ』
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