貴方のための物語
一項目『追いかけっこ ー時計兎を追いかけてー』
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、変化は緩やかに訪れた。
「ッ……! 」
「ユーリ、空が!!」
草原の先は空とフィールドを隔てる外周部の柵があるはずなのだが、ぼんやりと霞始めと思えば姿を消し、同時に青い空が緑へと染まった。 空が消え、草原の続きが現れたのだ。 そして、さらに変化は続く。 足元でゆらゆらと揺れる背の低い草花から、キラキラと輝く粒子が溢れ、遠くの方が虹色に輝いていた。走る速度を落として 思わずその光景に見惚れ、感嘆の囁きを零した。
「綺麗、だね」
「あぁ、けど……これだけじゃないらしい。どうやら、 お迎え役が来たらしいぞ」
スッとユーリの目が細くなり、草原の一点を睨みつけていた。 シィもそれに倣い、フォーカスを合わせると視界に首から金時計を下げ、片眼鏡に紳士服を纏ったウサギの姿が写った。
「あれが、時計ウサギ……、って逃げた?!」
「逃がすかよ!」
視界の先でくるりと反転し、勢いよく駆け出した時計ウサギを追って二人も駆けるスピードを速めた。 仮にもデスゲームを攻略せんと日夜、迷宮区で生死を賭けた戦いを繰り広げるトップ集団〈攻略組〉の一員だ。 その敏捷値は、並みのプレイヤーでは比較にならないほど高い。 しかし、一向に時計ウサギとの距離が縮まる気配がない。
若干の焦りの感情が芽生える中、夢中で追いかけっこに興じていると何もなく延々と続く草原にポツンと扉が現れた。 突然の出来事に驚きを露わにする中、ドアの足下、ウサギ一匹が潜れそうな小ささのドアを時計ウサギがガチャリとノブを捻り、ドアを潜り、忽然と姿を消した。
「逃がすかよっ……って?!」
ブーツの鋲で急制動をかけ、立ち止まり、即座にドアを開けたユーリは目を大きく見開いた。 ドアの先に通じていたのは、無限に続く草原……ではなく、底の見えない穴がぽっかりと口を開けていたのだ。 すぐに相方を止めようと後ろを振り返るがーー
「い゛っ?!」
「急に立ち止まらないーー」
「バカーーーー?!」
「デぇぇぇぇっ!?」
ーーブレーキをかけ損なったシィに突撃され、二人揃って穴の中へと転がり落ちた。
落ちて即ジ・エンドという事はなく、大穴の中は、スライダーのようになっており、二人仲良くゴロゴロと転がっていた。 視界がぐるんぐるんと回る中、さっきも聴いた声が再び聴こえてきた。
ーークルクルクルクル廻るドア! 行き着く先は……
光の点が見えたと思いきや、スライダーが終わりを迎え、二人は放物線を描いて、外へと吐き出された。 先に地面へと落下したユーリは、鈍痛に呻いていると聞き慣れた声の叫びが聴こえた直後、背中へドスンと衝撃が走った。
「グェ……」
「あ、ごめん」
見事にシィに押し潰されたユーリはみっともない声を上げて地へと伏した。
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