暁 〜小説投稿サイト〜
おとそ
2部分:第二章
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
桶に花札でも入れとけ。じゃあな」
「全く」
 暫くして一升瓶を抱えて戻ってきた。そしてそれを手にどっかりと家の中に座り込んだ。
「戻ったぜ」
「酒はそれだね」
「ああ、杯持ってきてくれ」
「あいよ」
 シズは言われるまま杯を持って来た。そしてそれを手渡す。
「大丈夫なんだろうね、その酒」
「多分な」
「多分って」
「飲んでみねえとわかりゃしねえよ」
 そう言ってその杯に酒を入れはじめた。トクトクと音がする。
「そうだろ?どんなに美味い酒でもな」
「そりゃそうだけれどね」
「まあこれで一年のはじまりだ」
 彼は言った。
「おとそだ、おとそ」
「やれやれ」
「飲むぜ、今日は」
 そう言って早速飲みはじめた。彼は瞬く間に一升空けてしまった。
「ふう」
「凄いね、一升あっという間じゃないか」
 シズはそんな彼を見て言った。彼女は飲んでいない。何か危なそうだったからだ。
「久し振りだぜ、こんなに飲んだのは」
「そうかい」
「なあ」
「何だい?」
「ちょっと・・・・・・気分が悪いや」
「えっ!?」
 それを聞いて顔を顰めさせた。
「それってまさか」
「そのまさかかもな。何かよ、頭が」
「ちょっと御前さん」
 シズの顔が見る見るうちに蒼ざめていく。
「冗談じゃないよ、やっと戦争が終わったってのに」
「医者呼んでくれ」
 彼は言う。
「何かよ、目まで」
「ちょっと、ちょっと」
 彼女は慌てて子供達を呼ぶ。
「早く医者呼んできな。このままじゃおとっつあんが」
「早く頼むぜ」
 彼は言う。
「何かよ。少しずつ」
「しっかりしなよ、何言ってるんだい」
 夫の側に来て必死に声をかける。
「あんたに死なれたら困るんだよ、お願いだから死なないでくれよ」
「へへへ、やっぱり運の尽きかもな」
 最後に自嘲めかして笑った。
「おとそで終わりってな」
 そう言ってその場に崩れ落ちた。そこに医者がやっとやって来てまた大騒ぎとなったのであった。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ