第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:剣戟の残響
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の名前ではなく、その《名前さえ語られないギルマス》なる人物についてだ。彼女の名前にも少なからぬ動揺を覚えるが、こればかりは自身の不運か、それとも結ばれてしまった奇縁を恨むしか出来ない。いや、俺には恨む権利さえないだろうに。
あの時、託された二つの指輪と愛剣を渡した相手が、彼女の死を受けて泣き崩れた彼女が、如何なる手法で圏内PKなる狂気の餌食となったのか。
余りに度し難い事件に言葉を失うが、しかし、もし仮に死者が復讐としてプレイヤーを手に掛けることが起こり得るとしても、それでも俺の知る限りで《あの人》が誰かの命を望んで奪うなど、万に一つとして在り得ない。それだけは断言できる。
こちらの内心も知らず、キリトは事件のあらましを述べ挙げてゆく。
壁職プレイヤー《カインズ》の死。
ヨルコとの出会い。凶器の製作者と被害者達の関係。
そして、今しがた起きたヨルコの殺害。
語られる事件の全貌が露になるにつれ、心のどこかで否定していた懸念は呆気なく現実のものとなる。まるで、まだ終わっていないとばかりに、古傷を新たに開くような心痛を覚えるが、俺には見ぬふりをすることが出来なかった。
終わっていない。まだ、あの時の惨劇は幕を降ろしてなどいない。
ならば、俺のすべきことは一つ。俺には、再び向き合わねばならない義務がある――――だが、
「生憎だが、圏内の有する絶対性はプレイヤー如きでは突き崩せやしない。誰がどうやっても、結果は変わらない」
キリトと結託するという選択肢を、俺は捨て去った。
ヤツは強い。それでいて、真実を見抜く確かな目がある。
圏内殺人事件は、この二人に任せておけばどうにかしてくれるという根拠のない確信だけで、俺は彼等と道を違えることを決めたのだ。
「でも、確かに二人は私達の目の前で………」
「だったら、お前等に一つだけ教えてやる」
食い下がるアスナを一蹴し、人差し指を出して言葉を区切る。
代わりに、少しばかり入れ知恵をするくらいで許してもらうこととしよう。
「先ず、プレイヤーはHPを全損した後、僅かな猶予時間を経て大量のポリゴンの残滓を振りまいてアバターが爆散する。そこまでは分かるか?」
「ええ、考えたくもない嫌な話だけど、知らないワケじゃないわ」
「だったら、もう十分だ。あとは、どうすればそうなるのかを考えてみろ」
問答は早々に終えるが、アスナは首を傾げるのみ。キリトも悩ましげに黙考する。
しかし、長考とはならず、キリトはソファから腰をあげた。
「結論は出たか?」
「いや、まだわからない。もう少し情報収集をしてからに
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