第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:剣戟の残響
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思いきや、キリトの表情には余裕が無いようにも思えた。
鬼気迫るというような、何か切迫した状況であることを如実に訴える表情は、その横にいるアスナも同様のようだ。キリト一人ならばいざ知らず、日頃から攻略に全霊を注ぐ彼女が前線から離れ、キリトと行動を共にしている。まさしく、尋常ならざる事態というやつだろう。
「あまり期待はするな」
念押しに一言だけ添え、顎で示して来客を促す。聞かれたくない話の事情までは現状において察することは出来ないが、それが重要な問題であることくらい俺にも理解できる。来訪者の剣呑な表情からして、気軽に笑える冗談めいた話ではないだろう。ならばこそ、それを茶化すような真似をするのは失礼というものだ。
再び来た道を戻り、リビングに戻るや否や引き連れてきたアスナにヒヨリが飛びつくのを引き剥がしてティルネルにヒヨリを任せて人払いを済ませる。テーブルを挟んで互いが席に着き、対談の用意は整うも、ようやくキリトが口火を切ったのはたっぷり三十秒を要してからだった。
「………圏内で、プレイヤーが死んだ」
「ちょっと、キリト君!?」
荒唐無稽に過ぎるキリトの発言に、アスナが慌てて制しようとする素振りを見せる。
キリト一人だけであれば、内容如何はさておき冗談として聞き流していたかも知れないが、そこにアスナが動揺したとなれば、彼女の思いとは裏腹に返って信憑性を増す要因になってしまう。真偽の判断は先送りにするとしても、観測された事象として捉えるに不足はないだろう。
キリトは相も変わらす視線に鋭さを宿しながらも言葉を繋げた。
「一人目は、間に合わなかった………でも、二人目の被害者は、俺達が油断した所為で死んだ。俺達がいる目の前で、今さっき殺されたんだ」
それは、苦しさに溢れた独白だった。
誰かの死を重く、真摯に受け止める彼に言い知れぬ憧憬と恐怖の入り混じる感情が込み上げる。
多くの命を奪った事実から目を背け、その結果として壊死していく心の痛みにも?き苦しみ、怯えるだけの俺にはとう到底得難い崇高な意思に、この一時は魅入られていたのかも知れない。
――――その、一時までは。
「二人目の被害者………《ヨルコ》さんは、死んだギルマスの復讐だって言ってた。でも、この世界は全てデジタルデータで構成された仮想空間だ。絶対に、何かしらのロジックが隠れているとしか考えられない。これは、復讐を演じた悪意ある殺人だ。」
だから、知恵を貸してくれないか。
キリトからの要請を聞き取るものの、その大部分は大きく揺らいだ精神が思考を阻害して返答に至れなかった。
たった一人のプレイヤーネーム。
いや、俺が反応したのは、きっと二人目の被害者
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