第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:剣戟の残響
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が君を拒否すれば、同じようにその場で彼女を始末して手間の一切を省いてしまえるんだ」
………違う。
これは、俺の望んだことじゃない。
右手から滑り落ちた毒剣から後退る。
松明の灯を反射させ、嘲るように光沢を晒す剣は、人を刺したにしては汚れの無さすぎる刀身を更に輝かせる。
「だって、そうじゃない? このゲームの中は外の誰にも見られてないんだ。面倒な事があれば、無かったことに出来る。そうじゃなければ、仕方が無かったということにもね」
一拍おいて、声が続ける。
「だから、君は僕達と同類なんだよ。どんなに取り繕ったって………――――その笑みまでは隠せないだろう?」
気配のない空間からの呟きが、急速にぼやけてゆく。
身体が吐き気に疼くのか、震えが止まらないなかで、恐る恐る指先を口角へと運ぶ。
そのままなぞる軌道は醜い程に吊り上がって、嗚咽だと思っていた音は嗤いだった。
声は次第に遠ざかり、代わりに違う声に切り替わってゆく。
その声は知っている。絶対に守り抜かなければならない人のもの。それでも、俺はまたグリセルダさんと同じように………
「燐ちゃん! どうしたの、大丈夫!?」
突如として、声が鮮明さを得て鼓膜を震わせた。
視界が洞窟から屋内へと切り替わり、恐る恐る自身を見下ろすとソファに横になっていた恰好だった。傍で不安そうな表情でこちらを見つめてくるヒヨリと目が合い、それから間もなくして、ソファに寝転がって意識を手放すまでの記憶が蘇る。どうも、悪い夢を見ていたらしい。まだ腕に感覚が残ってそうなほど鮮やかに記憶に残っていて落ち着かないが、一先ずは息を整えることにした。
「怖い夢、見てたの?」
「いや、大したことない。大丈夫だ」
「でも、燐ちゃん、すごく辛そうだよ?」
「………そんなことない」
「そんなことあるもん」
首の重さに耐えかねて左の掌を額に当てているのを見られてか、泣き所をつつかれる。
前者は分かりそうではあるが、後者の隠し事については、付き合いが長いだけに僅かな機微でも筒抜けになってしまうらしい。おまけにヒヨリは確信を得たらなかなかに折れてくれない強情なところがある。
それに、願わくば俺が人を殺したという真実には至って欲しくない。それだけを切に願って、もう長い期間同じように繰り返してきた沈黙を貫いていると、膝の上で拳を握っていた右手にヒヨリの両手が覆い被せられた。
「でも、言いたくないんでしょ?」
「………そうだな」
一瞬、右手が強く握られる。
悔しそうで悲しそうな表情を覗かせたヒヨリは、そんな表情もすぐに潜ませて、一つ大きく頷く。
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