第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:剣戟の残響
[2/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。
もうこの際、俺がどう思われても関係ない。ただ、一時でも俺のことを親友と言ってくれた彼女をこのままダンジョンに放置するというのは、俺には出来ない。だからせめて、彼女のホームタウンに送り届けるくらいは許されないだろうか。
「………グリセルダさん、もう、帰ろう?」
可能な限り声から棘を取り払い、手を伸ばす。
害意がないと察してくれたのか、おずおずと距離を狭めてくる。
しかし、この洞窟は数こそ少ないとはいえモンスターが出現する、れっきとしたダンジョンだ。離れないように気を付けてくれと注意勧告を述べる前に、差し伸べていた手はまるで別の生き物のようにコートの下へと滑り込んだ。
右の掌に当たる硬質な物体は、まぎれもなく《クラン・カラティン》の柄。手放そうにも右手は言う事を聞かず、咄嗟に抜剣された毒剣を左手で掴む。刃の腹を握った左手はダメージエフェクトを発生させ、赤いポリゴン片を宙に舞いあげるが、拮抗したのは僅か一瞬。柄を持つ右腕が柄を逆手から順手に持ち替え、地面に垂直に向けられていた鋒を《あの人》に向けて突き放った。
刃の滑る感覚が左腕に走り、腹部に刃を穿たれた彼女のカーソルには《出血ダメージ》と《ダメージ毒》のアイコンが表示される。両脚さえも細身を貫いた刃を更に深く刺すように猛進し、岩壁に鋒を突き当てて彼女の細身を縫い付けた。やがて継続ダメージが発生したことで更にデバフアイコンが重複し、HPバーの減少速度が更に加速する。
「………ぃ………いや………やめ――――」
声を震わせながら、指が食い込むほど右腕を掴んで抗う《あの人》は、そのまま呆気なく青い輝きに包まれて爆散する。剣を握っていた掌と吶喊した両脚は用が済むと力を失い、毒剣は床に金属音を響かせながら堕ちると同時に膝を地に落とす。
これほど理不尽に、あまつさえ自ら手に掛けるというかたちで、守りたかった人を失うのか。
右腕の神経が訴える、《あの人》の手の感覚の残渣を感じると同時、凄まじい嘔吐感に苛まれる。思わず屈み、こみあげる熱を吐き出そうにも、仮想の身体には臓器に相当する機能はない。ただ延々と続く責め苦に堪えるしか方法はなかった。
「――――ほら、やっぱりだ」
ふと、耳の奥に響く男の声。
次いで、どこからともなく反響する嘲笑。
その声たちを俺は知っている。俺が手に掛けたオレンジプレイヤーだ。聞き違える筈もない。
しかし、既に死んだ彼等の声を聴くことそれ自体が、事実と矛盾する。死んだ人間は何があっても声を発することは出来ない。たとえ如何なる思いがあっても、その心理を覆すことは出来ないというのに。
「結局、君は一番楽な選択肢を選ぶ。彼女を助ける為に、そのスキルがあれば僕達を殺した方が楽だったように………彼女
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ