第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:剣戟の残響
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怒りに染まった咆哮、死に怯える絶叫。
周囲の敵を蹂躙し、滅ぼした後に残った空虚。
夜闇に沈んだ森はこんなにも静かで寂しいのに、あの怒涛の音の洪水は鼓膜に染みついて離れない。
それはまるで死の恐怖や、脳を焼かれる苦痛を訴える犠牲者たるオレンジプレイヤーの怨嗟のようで、頭蓋の中で反響して増幅しては脳裏に潜り込み、奥へ奥へと進入する毒のようにも思えた。
友人の命を守る為に躊躇なく殺戮という手段を選んだ俺には、まともな人間性など既になかったのだろう。それでもこうして存在しない筈の、心という器官に痛みを被っているのはどうしてなのだろうか。
苦痛を装い、奪った命に対して罪を感じているフリをしているのか、それとも、これから犯した殺人を隠しながらヒヨリと共に生きることに対して後ろめたさを感じているのか。どうあれ、俺は既に真っ当な人間ではないらしい。自らの思考が全て、利己的に過ぎる。
痛みを引き合いにしたところで、罪からは逃れられないというのに。
夜の森にのびる小路は、ぽっかりと開いた洞窟へと至る。
それは、《あの人》を助けるべく踏み込んだ場所。
一つの命を救うために、釣り合わないくらい多くの命を奪った煉獄となった場所へと、踏み入れた。
永劫、光など届かないようにさえ思える無間の闇。
あの殺戮の直前にはただ不気味に思えた黒の領域で、同時の順路をなぞるたび、こびりついた音は一層に記憶的な精度を増してゆく。
響いて、融け合って、風化した音は、まるで今もまだ死者がそこに縛り付けられて悲鳴をあげているような、咆哮をあげているような、恐い程に鮮明に思い出されては俺を責め立てた。
やがて、洞窟は広い空間を晒す。
かつての惨劇の跡地。友人の窮地を救うべく、俺が地獄を作り上げた場所。
既に住み着いていたオレンジプレイヤーは誰一人として残ってはいないが、ただ一人だけ、ポツリと佇む人影があった。
軽金属装備も片手剣も盾もローブもない、ただあの時と同じ、ところどころ破損した布装備だけでダンジョンの奥に蹲る彼女は、今にも泣きそうな顔をしていた。しかし、それは九死に一生を得た安堵ではなく、いや、もういっそのこと友人に向けられるには過分なまでの恐怖が刻み込まれていた。
それはまるで、何か異質な存在へ畏怖を抱くかのような拒絶。
決定的に境界線を引かれてしまったようで、俺に対する明確な拒絶が滲み出ていて、堪らなく苦しい。
――――俺はただ、アンタに生きて欲しいだけなんだ。
喉元まで込み上げながら、息苦しさで言葉にならなかった独白を内心で呟きながら一歩だけ歩み寄るのだが、しかし、更に距離を置くように、《あの人》は数歩後退る。更に距離が開き、俺が迫ったことで更に怯えた表情を見せる
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