序の章
ハジマリ×ワカレ
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う事でしょう。けれど、それは全て致し方の無いことです。諦めましょう」
話し方が変に剽軽になり、私は自分がよほど落ち込んでいて、彼がそれを少しでも励まそうとしているのだと思った。
もしもその通りに紙に書かれているのであれば、なんとも恥ずかしい思考だ。
「それから、あなた様には異世界へ渡る際の餞別がございます。所謂特典と言うやつでもありますね。幾つかありますが、それは殆ど秘密です。あぁ、そうだ。質問宜しいですか?」
頷くと、彼は幾つか問いかけてきた。私は、それに全て正直に答える。なぜだか、ここで嘘をついては行けない気がした。
質問の答えを、だろうか。彼が何かに書き込む素振りを見せたと思えば、ありがとうございます、と一言言う。
なにかのアンケートだったのだろうか。
「……それでは、説明は以上になりますが、何か質問は? 無ければ、今すぐにでも送り出すようにと言われているのですが」
「んーと、一つだけ。私って、向こうでどういう扱いになる?」
この問に、彼は少し躊躇いつつも答えた。どうやら、送った瞬間に私は息を引き取る事になるらしい。
それどころか、今まで暮らしていた世界での記憶から、私という存在が別の人物に上書きされるようだ。なにそれ恐ろしい、と思わず声に出す。
「世の中というのはそういうものです。……さて、そろそろ送り出しますよ。あぁ、向こうについてからのことですが、起きてすぐ服のポケットを漁る事をお勧めします。我々からの案内が書かれていますので」
ぴしゃりと言い放った後、彼は持っていた便箋を丁寧に懐へとしまい、両手を合わせた。何処ぞの錬金術使いの様である。
但し、彼の場合手元から放たれるのは電気のようなそれではなく、暖かな光だった。
「ゆっくりと目を閉じ、深呼吸をして下さい。……どうか、お元気で」
私は、その言葉を確かに耳に入れながら、言われた通りに瞼を下ろし、深呼吸をした。
瞼の裏でもわかるほどの光に包まれ、眩しさを感じながらも――私の意識は、光に飲まれて静かに溶けていく。瞼の、瞳の、瞳孔の奥で、天使君が微笑みながら、私の頭を一度だけ撫でた様な気がした。
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