第29話 暗雲
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泡浮は青い水着を元の場所に戻している。
「ん?!」
湾内の意外な一言にサソリ泡浮は、一瞬だけ動作をやめた。
「あまり出しても良くないと聴きますし、難しいですわ」
オレの為に?
何故だ?
この娘は一体?
サソリには初めての経験だった。
湾内の言動や態度からは木山のように嘘を吐いているように見えない。
ま、まさか......
本当にオレの事を......
試着室に入っていく湾内を見送りながらサソリ泡浮は、真剣な顔になって悩み出す。
オレにか......
いや、まだ決まったわけではないが
もし本当にそうであるならば
はっきり言わないとならんな
オレは幸せにはできない
できるのは不幸にするだけだ
オレなんかやめて、別の所に行ってくれ
試着室から出てきた湾内がやや、照れながらサソリ泡浮の前にカーテンを開けて現れた。
セパレートタイプの水着に白い柔肌が妙に眩しく見えた。
決してサソリには手の届かない場所に咲く花のように見えてしまう。
サソリ泡浮は、上品に笑みを浮かべると
「似合っていますわ。湾内さん」
と言った。
ここに来て、サソリは自分で心から思った事を口に出した。
******
「本当に買わなくて良いのですの?」
「はい、あまり気に入るのがなかったですわ」
「そうですの。サソリさんに早く見せたいですわ」
ギュッと買ったばかりの水着が入った袋を愛おしいそうに抱きしめた。
だめだ
頼むから、オレから離れてくれ
オレと一緒にいてはダメだ
オレが出来るのは、壊すだけだ
血を抜いて、皮膚を剥いで洗う
近くにいたら、オレはお前を殺してしまうかもしれない
生気に満ちた眼がオレの手に触れた瞬間に色を喪い、何も映らないガラスのように無機質になる。
そのガラス玉はオレを見上げる。
オレの行いを咎めるように見続けている。
細くしようが、関係なく
全てを知っているかのようにオレを映し続けていた。
写真を消したら、終わりだ
もう、コイツとは
サソリはポケットから自分の携帯電話を手に取ると湾内へのメールを開いた。
宛先 湾内絹保
本文 はい
と入力してメールを送信した。
これが最後の言葉になる。
湾内のカバンの中で携帯電話が震え出し、サソリ泡浮の前で携帯電話を開く。
「まあ!サソリさんから返信が来ましたわ」
嬉しそうにメールの文面を読んでいる
「サソリさんってチーズフォンデュがお好きなんですの?」
最後に送った好きな食べ物は、チーズフォンデュだったらしい。
「難しいものですわね。いやでも、これはやり遂げなければいけませんわ」
サソリ泡浮は手を伸ばすと湾内の携帯電話を手に取る。
「?何をしますの泡
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