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第一章
家庭教師
垢抜けない女だ、最初からそう思った。
家庭教師に来た若尾文代という大学生はやたらと長い髪をただ後ろに束ねて異常に度の強い眼鏡をかけて野暮ったい服をいつも着ている。何でも一流大学の学生らしいがそれでも色気なぞ全然ない女だった。
そんな女が来たと、東義光は大いに不満だった。あまりにも不満で家に帰るのが嫌になりそうだった。
だがそれでも家に帰らないといけなかった。彼には家出するという趣味はなかったしそれに結局は勉強をするのが自分の為だったからだ。それがわかっていても嫌だった。
「只今」
「お帰り」
すぐに母親から挨拶が返って来た。ついでに聞きたくない言葉も。
「先生もういらしてるわよ」
「うん」
不機嫌な言葉で応える。
「わかったよ。それじゃあ」
「今日も頑張りなさいよ」
そう義光に声をかけてきた。
「いいわね」
「頑張ってるよ」
義光はまたしても不機嫌な声で答えるのだった。
「だから安心していいよ」
「そうだね」
母の声が明るくなったのがわかる。
「最近特に成績があがってきたし」
「うん」
何か半分他人事の様な返事であった。その理由ははっきりとしていた。やはり面白くないからである。しかしその面白くない理由は母は知らない。
「いいことだね。全部あの先生のおかげだよ」
「そうかな」
その言葉には懐疑的な色にならざるを得なかった。
「そうだよ。だから」
ここで息子を急かしてきた。
「早く自分の部屋にね。いいね」
「わかったよ」
こうしてけだるい物腰で自分の部屋に上がった。木造の階段を昇って自分の部屋の扉を開けるともうそこにはその野暮ったい先生がいるのであった。
「お帰り」
「只今です」
義光は面白くないといった感じの声で先生に応えた。
「今日も早いですね」
「だって。もうすぐだから」
見ればもう机の前にいてテキストを開いている。いつもそうだが全く愛想も色気もない服である。その服でテキストをあれこれと見ているのである。
「本番まで。そうよね」
「はい」
その不機嫌な声で先生に答える。
「あと一月です」
「だから。最後の追い込みで」
正論である。正論だからこそ余計に面白くない。
「早めに来たの。これから毎日ね」
「毎日ですか?」
「その分のお金はいいってお母さんにお話したから」
つまり無料で義光に勉強を教えるというのである。今時どころか昔から見ても滅多にないいい話であるがこれは義光の母親にとってそうであるだけで義光自身にとっては決してそうではなかった。むしろその逆ですこぶる不愉快な話であった。
「一月の間宜しくね」
「わかりました」
ベッドの脇に鞄を置いて答える。
「じゃ
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