4部分:第四章
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第四章
だがその先生に。芙美子が持ち前の明るい声をかけてきたのであった。
「先生」
「え、ええ」
その脂汗をかき続けている顔で芙美子に応える。
「早く。美味しいですよ」
「そうね」
とりあえずその言葉に頷く先生だった。
「美味しそうね」
「そうですよね」
心にもない言葉だったがそれは芙美子には届かなかった。元より届くことなぞ期待してはいなかったがそれでも落胆するものはあった。
「ですから。どうぞ」
「わかったわ」
答えはする。しかしまだ箸は動かない。動かしてはいない、動かなくなってしまっていたのだ。意志ではどうやってもどうしても動かなくなってしまっていたのだった。
「先生、何か」
「石になったみたいね」
「そうね」
クラスメイト達は汗をかきながら動けない先生を見てまた話をする。
「何ていうかあれ?」
「あれって?」
その中の一人の言葉に注目する。
「あれがどうかしたの?」
「ギリシア神話みたいじゃない」
彼女が言うのはそれだった。
「ギリシア神話。ほら、あの」
「メデューサね」
「そうそう、それそれ」
よりによってそれを話に出すのであった。
「今の先生そういう感じじゃない?」
「確かに」
「言われてみれば」
そして他の彼女達もその言葉に頷くのだった。やはリ外野としての気楽さがそうさせているのであった。実際に彼等はかなり気楽であった。食べなくていいからだ。
「何かもう今にもね」
「完全に石になっちゃいそう」
「つまりあれね」
ここでまた言われるのだった。
「あのお好み焼きはつまり」
「メデューサの目並の威力があるってことね」
「殆ど神話かゲームね」
メデューサはゲームにも非常によく出て来るのでこう言われるのだった。ゲームにおいても常にその石化能力で主人公達を苦しめるのである。
「そこまで行くと」
「けれどさ。先生それでも」
また一人が言った。
「身体。何とか動かしてるよ」
「そういえば」
「必死ね」
見ればその通りだった。先生は何とか身体を動かしていた。そうしてその箸をやっとお好み焼きに付けたのだった。七色の不思議なお好み焼きに。
そのまま何とか一片を切って箸に取る。そのうえで口に近付けていくがその動作がまた。随分と鈍いものなのであった。やはり石になっているようだった。
「ここからも遅いわね」
「何かこうして見るとコマ送りみたいね」
「ビデオの?」
「そう、それ」
今度言うのはこれだった。
「そういう感じじゃない。それかジャイアント馬場」
「また随分古いわね」
最早伝説となっているプロレスラーである。二メートルを超える長身を使ったその技でよく知られている。プロレスラーとしては華麗かつダーティーなファイトで知られる
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