第二百五十五話 帰りの旅その二
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「上様にはお茶を」
「そして他の方々にはですね」
「お酒を」
「天下のお酒の中でも」
特にというのだ。
「極上のものを揃えるのです」
「では、です」
ここで侍女の一人が言って来た。
「堺や神戸に来ている」
「南蛮のですね」
「あの蒲萄から造ったというお酒も」
「はい」
帰蝶の返事はここでは一言だった。
「そちらもです」
「用意するのですね」
「山海の珍味も用意しますので」
それ故にというのだ。
「お酒もです」
「南蛮の美酒も」
「明のお酒もです」
そちらもというのだ。
「あれば」
「わかりました、では」
「前にこの安土で大きな宴がありましたが」
「あの時の宴よりも」
「大きな素晴らしい宴にするのです」
是非にというのだった。
「そしてです」
「上様をですね」
「お迎えしますね」
「そうです」
その通りという返事だった。
「では今からです」
「はい、宴の用意を」
「それをしましょう」
皆言ってだ、そしてだった。
安土に残っている者達が宴の用意を進めていった。それは帰蝶それに市が進めていった。彼等は信長達が勝ったことに喜んでそうしていた。
喜んでいたのは彼女達だけではなかった、勝った天下の軍勢もだ。
明智は文を書き終えてからだ、娘婿の細川忠興に言った。
「この文は」
「はい、たまにですか」
「送るもの、たまに会った時に」
「それがしもですな」
「読んでもらいたい」
穏やかな顔での言葉だった。
「是非共」
「わかり申した」
「貴殿もやがて細川家を継ぎ」
「そしてですな」
「大名となる身」
それ故にというのだ。
「大事に過ごしてもらいたい」
「畏まりました」
「それでなのだが」
ここでだ、明智は話を変えてきた。その話はというと。
「実は近頃羽柴殿がな」
「そうですな、あの方が」
「戦に勝ってからな」
「これまで以上にですな」
「明るい」
「ですな、やはり」
「奥方のねね殿にな」
秀吉が母親の次に大事にしている彼女にというのだ。
「遂に」
「お子が授かったとか」
「それでな」
「そのお子をですな」
「早く見たい言ってな」
「昼も夜もはしゃいでおられますな」
「それで今も権六殿達と飲んでな」
そうしてというのだ。
「笑っておられる」
「ははは、猿殿らしいですな」
「全くじゃ、わしも先程まで羽柴殿達と飲んでおったが」
しかしというのだ。
「文を書かねばならぬからな」
「席を離れて」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
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