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鬼の野球
7部分:第七章
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たりするもんや」
 村野独特の話の流れになってきていた。
「御前が最初に入った年やったかな」
「あの時だか」
「言うたな。本物のキャッチャーになるのには十年かかるてな」
「確か」
 村野もその時のことを思い出して頷く。
「最初のキャンプだったべな。監督、いえ村野さんがおらに言ったのは」
「そや、その十年が経った」
 彼は言う。
「御前は本物のキャッチャーになった。けれどそれだけやあらへん」
「本物の鬼になっただか」
「そや。見事な」
 真似得流の顔を見て微笑んでの言葉だった。意外にもそういう顔もまた実によく似合うのがこの村野という男の特徴なのである。
「なっとるで。後はこのまま本物のキャッチャーの道と」
「本物の鬼の道をだな」
「進むんや。ええな」
「わかっただ」
 村野のその言葉に頷いた。
「おら、もっと本物の鬼になるだ。これから」
「そや。その意気や」
 こうして対談は円満のうちに終わった。そしてキャンプが終わってその因縁ある虚陣とのオープン戦。がらがらで誰もいない虚陣側の外野席にあの男がいた。
「けっ」
 米輔であった。すっかり干されてやさぐれ今日もビール片手に赤い顔をしていた。叩かれ干されたおかげですっかりやさぐれてしまい家族とも別居してしまっているのだ。まさに自業自得の無様な状況である。
 だがやはり反省する筈もなく。今もこうして無様な姿を公の場に晒している。そんな彼を見て良識ある者達は皆顔を顰めさせていた。
「お母さん、あの変なおじちゃん誰?」
「しっ、見ちゃいけません」
 ある母親がこう言って米輔を子供に見せまいとする。そしてその時にこの母親が言った言葉がこれまた絶品なのであった。
「あんな大人になってはいけませんよ」
「うん、僕わかったよ」
 子供も母親のその言葉に頷くのだった。確かにみすぼらしい格好で顔も洗わず髭も剃らず赤い顔をしているこの男は反面教師と呼ぶに相応しい有様だった。もっともその知性や品性や人格の元々の卑しさを考えれば外見がそれについてきたと言うべきであろうか。

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