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鬼の野球
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第一章

                   鬼の野球
 赤鬼真似得流は山の中に住んでいる。顔は真っ赤でやたらと大きく力も強い。だが意外と気は優しく人間に対しても親切だ。頭に二つ生えている角は切っているので人間と見分けがつかなくなっている。とりあえず山の中の樵ということで人間とも付き合っているのである。
 その彼がふと山で猪を撃とうとやって来た猟師と二人で岩魚を川辺で焼きながら酒を飲み楽しくやっていた時だ。猟師が彼に面白いことを言ってきたのである。
「野球!?」
「そうだべ。野球だべ」
 猟師は木を突き刺して焼いた岩魚を頬張りながら彼に言ってきた。
「野球。真似得流さんは知らねえだべか?」
「おらずっと山にいっから」
 実は鬼だから人間のことには疎い部分も多いのだ。だから知らなかったのである。
「そんなもんがあるなんて」
「これがよ。凄く楽しいんだべさ」
 猟師は少し酒を飲んでからまた真似得流に話すのだった。
「やるのも見るのも」
「へえ、そうだべか」
「ボールをな」
「ボール!?ああ、球だべか」
 それが何のことかはとりあえず思い出した。山の麓の村の人達と話をしていてそのことは聞いていたのである。
「あれをどうするんだべか?」
「バットで打ってだな」
「バット!?」
「あんれまあ、本当に知らねえのかい」
 猟師はここで真似得流が野球のことを全然知らないことがわかった。
「真似得流さん、あんた野球のこと知らないんだね」
「何か面白いもんだっていうのはわかるべさ」
 だがそれだけなのだった。その怖い顔に困った汗をかきつつ述べる。知らないのだから何を聞かれてもわからないのである。
「けんどもそれ以上は」
「よし、じゃあおらが教えてやるべさ」
 彼が本当に何も知らないのを確認して名乗り出る猟師だった。
「ええか?まんず」
「ああ」
 こうして真似得流は猟師に野球の話を教えてもらった。後に本まで借りて勉強してそのうえで彼が思ったことは。極めて純粋なことだった。
「よし、おら決めただ」
 意を決した顔で言うのであった。
「おら、野球をしに山を降りるだ」
「あんれまあ、真似得流さん」
「そうしたらあんた」
 麓の村の人達は彼のその言葉を聞いて言うのだった。
「プロ野球選手になるだか」
「ホームラン打って」
「んだ」
 プロ野球のことも本を読んでわかっていた。かなり細かい部分まで勉強したのである。
「おら、東北極楽セネタースに入るだ」
「あの弱っちいチームに!?」
「また物好きな」
「おら、そういうチームが好きだ」
 これは彼の元々の好みである。弱い者をいたわる優しさもあるがそれと共にそういうチームを強くさせたいと思ったのだ。そういうことだった。
「だから。あそこに入るだ」
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