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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第141話 迦楼羅の炎
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「一切障難を滅尽に滅尽し給え。残害破障し給え!」

 三度繰り返される呪。全身に強い炎の気が駆け巡り、火行を象徴する臓器の心臓が生命の源を強く送り出し続ける。普段とは違う精霊の強い活性化により緋色に染まる視界の中、唯一頭脳のみが世界を冷静に。冷徹に見つめ続けた。
 その瞬間――霊的な砦の見えない城壁の周囲に灯る小さな明かり。
 赤い小さな光。それがひとつ、ふたつ、みっつ。ひとつひとつは直径二センチにも満たない小さな光。その小さな灯が一瞬の内に数えきれないほどの小さな炎となり、それぞれが、それぞれに向け小さな炎の糸を結び合い――
 数瞬の後、暗い闇の気配しかなかった大地に、原初の地球に等しい力強い紅が発生。
 そして、その炎が爆発的に拡大して行く!

 そう、俺が唱えた真言は火界呪(かかいじゅ)。不動明王が纏う迦楼羅炎(カルラえん)を召喚する真言。
 周囲を包む闇……蛇神アラハバキの悪しき気を駆逐して行く迦楼羅の炎。毒蛇から人を守り、煩悩を()らう、とされる霊鳥の炎が世界を朱に染めたのだ。
 煙を発する事のない神性を帯びた炎が、正に燎原の火の如き勢いで広がり行く!

 刹那! 
 退魔の鈴の音が、そして、鳴弦の弦音が二度、鳴り響いた!
 強化され、体感時間が常人の数十倍、数百倍に加速された俺には感じる事が出来る。氷空の中心に向かい、音速の矢が真っ直ぐに上昇して行く様が。

 瞬間――まるで霊的な砦を護るかのように大地に広がり続けていた炎が、その弦音が世界に響き渡った瞬間、遙か虚空へと螺旋を描くように伸びて始めた。
 その様子はまるで炎で出来た龍。紅い炎龍が天を目掛けて駆け上がり、昏い氷空を黄金と朱の色に染めた。
 科学的にこの現象を説明するのなら、これは火炎旋風。膨大な炎により発生した上昇気流。その気流によって炎がらせん状に渦を巻き、周囲から酸素を奪い去りながら、上へ上へと昇り続ける現象。

 しかし、当然、これは科学にのみ裏打ちされた自然現象などではない。黄金の矢を内包……蛇神の陰にして水の属性を持つ防御障壁から護りながら、遙か高見に存在する本体に一撃を加える為に俺が発生させた炎の柱。
 意識の奥深く。迦楼羅が存在する異界と繋がった俺の精神の奥深くからあふれ出し続ける炎……。これは組まれた印により、イメージだけの存在から現実の存在として姿を現した炎。但しこれは、普段、俺が操る現実世界に数多く存在する精霊とは違う種類の精霊力。まして、その炎自体がドラゴンキラーの迦楼羅の炎。
 現在、龍種の身体が悲鳴を上げ続けている状態。内臓を食い破り、骨を軋ませながら、隙があれば俺自身をも焼き殺そうとする迦楼羅炎。霊気の制御法の修業を、何時の生命でも怠って来たツケを一気に払わされる事に呪いの言葉を吐き出しながら、
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