第6章 流されて異界
第141話 迦楼羅の炎
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む祝詞。その時、少し上空からの圧力が和らぐ。
その瞬間、弓月さんの視線を感じた。確かに、一時的に圧力は弱まった。……が、しかし、今の鳴弦の威力では上空から圧力を掛けて来ている首に攻撃を仕掛ける事が出来ないと言う事なのか。
ならば――
「全方位の一切の如来に礼し奉る――」
一時的に言葉にして唱える呪文を、大祓いの祝詞から別の呪文へと切り替える俺。イメージ。世界を覆う炎。自らが結ぶ印からあふれ出す強い炎が世界を覆う様。
その呪文を耳にした彼女から一瞬、驚きと不安に似た気配が発せられる。成るほど、この反応から推測すると、弓月さんはこの呪文を知っている、と言う事か。
これから使用する術の内容から、彼女が俺の決意に気付いた……可能性は大きいか。今まで、彼女が示して来た能力や知識から推測するのなら。
しかし、少々の危険は承知の上。現状を打開するには、これから使用する術を中止する訳には行かない。
既に覚悟は完了済み。その瞬間、まるで俺の呼吸に合わせるかのように、大きく、ゆっくりと息を吸い込む弓月さん。彼女が精神の集中を行って居る最中も、ミシリっと見えない天井が軋む嫌な音を発する。そして、その音に呼応するかのように頭上に走る複数の蒼い線。
嫌な気配。危険な兆候。しかし、未だ多少の余裕はある……はず。
想定しているよりは外からの圧力が大きい事を認識しながらも、冷静な頭でそう判断。但し、少しずつではあるが、周囲からの圧力に屈するかのように霊的な砦自体が縮小している事も同時に感じられた。
この外界の状況から、俺たちにあまり時間が残されていない事も彼女なら直ぐに理解出来るはずでしょう。
「――成り出でむ。天の益人等が過ち犯しけむ、種々の罪事は、天津罪。国津罪。許々太久の罪出でむ」
そして、吐き出す息と共に、俺から引き継ぐかのように力強く大祓いの祝詞を続ける彼女。丹田に落とした息が発現のキーと成り、弓月さんが生成する霊気の質と量が更に大きく成った。
そうこの時、見鬼が感じて居る彼女の存在を示す黄金の光が更に輝きを増したのだ。
僅かな衣擦れの音と鈴の音。彼女が発するすべての音が鮮やかに重なり、たったひとつの呪を組み上げる。
彼女の動きに合わせて、微かに動く空気。更に足場を固める気配から、彼女の決意の強さを窺い知る事が出来る。北高校の制服に身を包む時の少し気弱げな目立たない少女の気配とは違う、白衣に緋色袴姿の少女から感じるに相応しい、強い凛とした清浄な気配。
矢張り、彼女の真の姿はこちらの方か。おそらく、彼女の家族以外では俺しか知らない本当の彼女と言うべき姿。
そして……。
そして、すべての準備の最後に、未だ続く上空からの圧力に抗する砦が発する軋みに、弓の弦が引き締められる音が重なった
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