第二十二話 新人事(その2)
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副司令長官になる件だな。ミュッケンベルガーとの分担をどうするか……。俺は文字通り副司令長官で良いんだけどな、艦隊を二つに分ける必要は無いと思うんだが……。
「ところで今回の勝利で卿は帝国元帥、宇宙艦隊司令長官に昇進する事になった」
「……失礼ですが副司令長官では有りませんか」
帝国軍三長官が顔を見合わせた。あれれ、だな。どうも間違いではないらしいが、俺は何も聞いていないぞ。何が起きた? ミュッケンベルガーはどうなるんだ?
「ヴァレンシュタイン、いや、ブラウンシュバイク公」
「はい」
「公は宇宙艦隊司令長官に就任する、間違いではない」
「……」
「実は私は心臓に異常が有る、狭心症だ」
「まさか……」
まさかだろ……、なんかの冗談だ。呆然としてミュッケンベルガーを、エーレンベルク、シュタインホフに視線を向けたが誰一人俺の視線に応えてくれない。ミュッケンベルガーは笑みを他の二人は沈痛な表情をしている。
「先日も発作を起こした。もはや最前線で指揮を執るのは不可能だ。あとは公に頼むしかない……」
「……」
「そんな顔をするな。私には公がいる、何の心配もなく辞める事が出来るのだ。喜ぶべき事だろう。ただ残念なのは副司令長官となった公と共に戦う事が出来なかった事だけだ」
「閣下……」
ミュッケンベルガーが笑みを浮かべている。戦う男の笑みじゃない、何処にも覇気が、威厳が無いのだ。優しくて穏やかでまるで春の陽だまりのような暖かさを湛えている。以前はこんな笑顔を浮かべる男じゃなかった……。
艦隊決戦を望んでいた、勝利を得る事は難しくなかった。実際にアスターテ星域の会戦ではフリードリヒ四世さえ倒れなければ同盟軍に止めをさせたのだ。そうなれば帝国史上最高の宇宙艦隊司令長官、そう呼ばれてもおかしくなかった。勝って、勝って、勝ち続けて、それでももう一歩、あともう一歩が届かなかった。実力が届かなかったのではない、運がこの男になびかなかった。勝ち運に恵まれなかった……。
無念だっただろう……。実力が無かったのなら諦めもつく、しかし実力以外の所で諦めなければならないとは……。運命を呪い絶望に喘いだに違いない、この笑顔を浮かべるまでにどれだけ苦しんだか……、俺にはとてもミュッケンベルガーを正面から見る事など出来ない、嗚咽が漏れた。泣くな、涙だけは零すんじゃない。
「後を頼むぞ、ブラウンシュバイク公」
「は、はい」
「内乱を防ぐためとはいえブラウンシュバイク公爵家の養子になったのは不本意な事であっただろう。そして本来なら公を助けるべき私が公に全てを押付け退くことになった……。済まぬ、公には苦労をかける……」
涙が零れそうになるのを懸命に堪えた。
「何を言われます、苦労をかけさせられるのは慣れております」
「そうか……
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