第159話
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大丈夫だ。
それより、お前の方こそ大丈夫なのか?」
「麻生の怪我に比べれば大丈夫。」
いつもの学校のように棘のある声ではなかった。
麻生の身体を本当に心配するような、そんな優しさが籠っている。
ふと、会話がなくなり二人の間に沈黙が包む。
沈黙を破ったのは制理だった。
意を決したような声で言う。
「き、恭介・・・」
いつもは麻生と呼んでいる制理が下の名前で麻生を呼んだ。
少し驚きながら麻生は制理の方に身体を向ける。
制理は少し恥ずかしいのか顔が赤くなっていた。
「私、思い出したの。
子供の頃に恭介が私を助けてくれたことを。
一日だけだけど一緒に遊んだこと。
どうして、あの公園で会った時に私の質問に嘘をついたの?」
あの少年が麻生である事を思い出した制理が一番聞きたい事を聞く。
制理の質問に麻生はすぐには答えなかった。
それでも制理は麻生の言葉を待っている。
「自分でも分からない。
どうして嘘をついたのか何てな。」
あの時に不思議に思った事を正直に話す。
その言葉を聞いて制理は一歩麻生に近づいて、包帯を巻いている手を握る。
「でも、私は思い出した。
あの時の思いも全部。
それが言いたかっただけだから。
早く部屋に戻って安静にしてなさいよ。」
未だに顔を赤くしながら制理は去って行く。
麻生は制理が握っていた手を握り締める。
もうあんな思いはさせない。
もう一度強く誓う。
彼女もまた麻生の大事な人だから。
少しだけ愛穂を見つめていた麻生だが、医者に病室に戻るように言われ戻る。
そのままベットに寝転がり寝るのだった。
次の日。
九時ごろに目が覚めた麻生。
目が覚めると同時に部屋がノックされる。
入ってきたのか看護師だった。
手には病院食が持たれている。
看護婦は麻生の容体や点滴などをチェックして、病院食を置いて部屋を出て行った。
メニューはご飯にみそ汁、きゅうりの漬物に焼き鮭。
牛乳に大根の煮つけなどシンプルなものだ。
焼き鮭を口に運ぶが味はお世辞にもうまいとは言えない。
そもそも病院食は一般の食事と異なり、各々の病院で、個々の入院患者の病状や体質が処方される。
歯応えのあるものを避け、味付けが薄く、香辛料などの刺激物を控える傾向があり、さらには 集中調理されるため配送に時間がかかり、患者の口に入る頃には味が損なわれていることも多い。
それでも麻生は淡々と口に料理を運び、綺麗に食べ終わる。
これからどうしようかと、考えた時だった。
ノックもなしで扉が開く。
そこには桔梗が息を切らして立っていた。
「どうした?」
麻生が聞くと桔梗は言う。
「愛穂が・・・愛穂が目を覚ましたの。」
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