第1章転節 落暉のアントラクト 2023/11
9話 災禍を纏う凶刃
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それとも、忘れてしまったのか。
「すぐ分かる。………恨むなよ」
「何言ってやが………ッ!?―――――」
メイス使いの怒声が半ばで途切れた。
遅れて、ノックバックを受けたオレンジプレイヤーの全てが地べたに倒れ這いつくばる格好となり、身動ぎ一つ起こすことも叶わなくなる。彼等のカーソルに示されるHPバーには、数の差異こそあれど《麻痺》を示す黄色いアイコンが表示されている。同時に、《ダメージ毒》や《出血ダメージ》を示す紫や赤のアイコンも複数個に渡って表示されていた。メイス使いの震える視線が捉えているのは、恐らくは自身の命の残量だろうか。
「がッ………ぅ、ぎ………テメェ、なに………し、やがった………!?」
ここに来て、ようやく事態の異常さに気付いたらしく、メイス使いは麻痺によって制限された状態で何とか言葉を絞り出す。
本来のSAOにおいて、麻痺やダメージ毒といった状態異常は《欠損》状態等の例外を除けばプレイヤーやモンスターを問わずそれぞれ一つまでしか発生しない。如何に強力なダメージ毒付与効果を有する《クラン・カラティン》であれ、そのルールから逸脱し得る力はなかった。新たに状態異常が発生する場合には、メイス使いが直面しているような《重複》ではなく、経過時間を更新する《上書き》という形になる。故に、常に一定で少量のダメージしか与えられない《ダメージ毒》や《出血ダメージ》といった状態異常は必然的に優先度が下がる。
元来のSAOにおける、取るに足らないとされていた状態異常は、しかし今まさに最前線にいるオレンジプレイヤーを脅かす暴力となっているのもまた事実。システム的に定義された仕様の壁を易々と越えてしまう力を如何にして得たのか。実のところ、俺でさえその経緯には覚えがない。しかし、この得体の知れないスキルは、これまで見向きもされないような力に破格の補正を与えて強化し、それでいて発生する状態異常ダメージは防御力によって減少しない。つまるところ、現状における俺の真価は状態異常による《防御無視の継続ダメージ》と《超高確率での行動制限》の二つ。刃によって発生するダメージは度外視してもお釣りがくる。
未だに熟練度も低く未熟なスキルではあるが、隠しダンジョンにおいて性能はあらかた確認している。対峙したモンスターのどれもが無力にも行動を妨げられ、一方的にHPを消耗させ、力尽きてゆくという剣士の世界にあるまじき陰惨で卑劣な殺傷手段。しかし、友を助ける為であれば、行使を躊躇う理由はない。もとより、卑怯を嫌うような高潔さも俺にはないのだから。
だが、このスキルについては不明な点も多く、何よりもメイス使いの要求に従って説明してやる義理は俺にはない。ただ、一つ言えるとするならば………
「《秘蝕剣》スキル
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