第1章転節 落暉のアントラクト 2023/11
9話 災禍を纏う凶刃
[2/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
き耳》スキルによる補助もあって、風の通る音から奥の分岐や遠方の反響した足音まで察知が可能となっている。これもまた隠しダンジョンを踏破するにあたって必要に迫られて獲得したMODだ。
言うなれば、俺には《このダンジョン内では他のプレイヤーがどこに居るのか》という情報が容易に読み取れてしまうことを意味する。本来はモンスターの湧出場所と巡回ルートを回避するために利用するものだが、今回は逆転の発想とさせていただこう。
しかし、相手の状況が知れたことで新たな問題に直面する。注目すべきはその人数、足音や人数から見てかなり多い。それこそ、一つのレイドが収まっていると言われても過言はないくらいだ。
――――本当に、出し惜しみが出来なくなるかも知れないな。
徐々に露になる状況の危うさとは裏腹に、内心は焦燥や不安のない穏やかなものへと落ち着いて行く。
観念するというのは、こういうことなのだろうか。悟りを開いた人間ならば常にこのような境地なのかも知れないと感じながら、いよいよ目的の広間へと踏み入れる。そこは四方に松明が掛けられ、誰の物とも知れないようなアイテムポーチや装備品、ポーションや結晶アイテム、果ては雑多な素材が野放図に散乱する空間だった。これを戦利品とするならば、相応の数の犠牲者を出したことだろう。
しかし、誰とも知れない犠牲者に黙祷を捧げるのは今ではない。
下卑た笑いを浮かべながら何かに群がるプレイヤーの一団は、どうも悪い予想が的中してしまったらしく、見立て通りにレイド程にもなるであろう頭数で、その全てがカーソルをオレンジに染めていた。隠蔽スキルやModを解除していない俺には未だ気付いていない。
更に群れの奥に視線を向けると、その渦中で力無く横たわる人影と視線が合った。俺と見た瞬間に目を見張ったその女性は、どう考えてもグリセルダさんに他なるまい。防具の付けていないチュニックだけの姿は寝込みやそれに近い状態を狙われた紛れもない証拠だ。衣服に見られる刀傷のような損傷も、危険域まで減少したHPも、ここで何があったかを雄弁に物語っている。その光景それ自体が、何かを逆撫でするように不快感と怒りを込み上げさせる。
「………珍しいね、まさか君が来るなんて思ってもみなかったよ」
グリセルダさんの表情の機微を読み取った、集団のうちの一人がもたげるように振り向き様に言葉を投げてくる。カーソルはオレンジ。即ち、誰かを害したことのある犯罪者である証だ。
当然、こういった手合いに面識はあまりないのだが、向こうは情報として俺を知っていたのだろう。まるで知り合いであるかのように振舞われる。
「で、女の子に火力職を任せてる弱虫クンがどうしたのかな? 迷子?」
「その人を、助けに」
「へぇー、ふぅーん? このおばさんを助けに
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ