巻ノ四十 加賀の道その二
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「ですからここは別に恥じることなく」
「そういうことか」
「いや、生臭ものであっても」
清海はそう言いつつ最も勢いよく食べている。
「このご好意は受けませぬと」
「拙僧もです」
見れば伊佐も丁寧に刺身を食べている。
「楽しませて頂いております」
「それにこの辺りでは普通の魚とか」
筧は幸村にこのことを話した。
「ですから我等には馳走でもです」
「ここでは馳走ではないか」
「そういえばですな」
穴山も気付いた声で言った。
「我等自身から贅沢を求めたことはありませぬ」
「その土地のものは食いましても」
望月も続いた。
「民に無理強いはしておりませぬな」
「それは殿が最も嫌われることですな」
猿飛は幸村が民を義と同じだけ大事にしていることから述べた。
「民百姓に無理強いをすることは」
「美味いもの即ち馳走ではないかと」
百合の言葉だ。
「別に」
「ふむ。美味なものと馳走は違う」
幸村は瞑目する様にして述べた。
「そういうことか」
「殿はその地にあるものは口にされますが」
「ご自身から求められることはないですな」
「そう考えますと」
「殿は贅沢ではないかと」
「ならよいがな」
幸村も十勇士達の言葉を受けて頷いた。
「拙者も」
「贅沢と美味いもの食うことは違うかと」
「殿が贅沢とはです」
それこそというのだ。
「誰も思いませぬ」
「全くです」
「我等から見ても」
「そして他の者が見てもです」
「殿は贅沢ではありませぬ」
「むしろ質素の極みです」
「そこにあるものでいつも満足されています」
「屋敷も着ている服も質素ではないですか」
「それでどうしてです」
「殿が贅沢なのか」
「誰も思わぬことです」
「ならばよいが」
幸村も彼等の言葉を聞いて瞑目する様にして言った。
「拙者は贅沢は戒めておる」
「武士として」
「それ故にですな」
「うむ、武士は贅沢をしてはならぬ」
決してという口調での言葉だった。
「それはな」
「むしろですな」
「そこは慎み」
「そしてですな」
「質素なまま文武に励む」
「そうしていかれますか」
「だからいつも贅沢にならぬ様に気をつけておるが」
刺身と酒を楽しみつつの言葉だった。
「この刺身は贅沢でないならよい」
「海では魚は付きもの」
「刺身にして食うのもです」
「ではです」
「これからも食しましょうぞ」
「そしてこの地の酒も飲み」
「楽しみましょうぞ」
こう話してだった、彼等は酒や刺身を飲み食いして楽しんだ。その話を聞いてだった。
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