降り積もる灰燼から
44.トライアングルハーモニー
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家族に限りなく近い。ファミリアというくくりを家族とするのなら尚更だ。
しかし、また少し経てばオーネストはその手に泡つきのスポンジではなく剣を握るのだろう。前にオーネストの部屋に運んだ剣を思い出し、高揚した気分が少しだけ沈む。また二人は命懸けのスリルを楽しむように魔窟の奥へと刃を押し込んでいく。死なないとは分かっているが、それでも待たされるのがいつも平気という訳ではない。
(そういえば……)
オーネストの部屋にあった大量の死亡通知書を思い出す。
あれは、きっとオーネストにどこかで関わっていた人々の亡骸の一つなのだろう。
それほどの死別、それほどの哀しみを背負ってもなお、オーネストは戦い続けている。
既に死別の哀しみを忘れてしまったのか?それとも今でもそうなのか?もしそうならば、オーネストは冒険者として戦いながら、癒えることのない傷より幻の痛みに耐え続けているのではないか。
漠然とした疑問と心配。それをオーネストにぶつけるのが、怖い。もし今でも苦しんでいるのだとしたら、メリージアに一体何が出来るというのだろう。消えない過去に、現在を生きる自分が勝てるか。オーネストが過去より自分を取ってくれる確証はあるのか。
「オーネスト様」
「なんだ」
「アタシを、捨てんな、ですよ……アズ様も」
自分でも馬鹿なことを言っていると思う。それでも、メリージアは問うた。
オーネストはそんなメリージアをしばらく見つめて、おもむろにぽつりと呟く。
「………お前はどうせ捨てても勝手についてくるだろうが。自分が押しかけメイドだったことも忘れたのか?」
「そういえばそうだったな!うわー、あれからもうそろそろ2年だな……懐かしいねぇ。『今日からこの薄汚ねぇ屋敷でメイドとして働くことにした!!』……ぷふっ、今とは大違いだ!」
「あっ……い、いやぁぁぁーー!?そんな過去の異物掘り返して笑うんじゃねえですよクソ野郎どもぉぉおぉ〜〜〜っ!?」
思い出すのも恥ずかしく語ると顔から火が出そうな過去を掘り返され、メリージアは顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。そう、素直じゃなかった昔のメリージアは確かにそう言ったのだ。今にしてみれば何という馬鹿発言だと頭を抱えそうになる。
しかしそうか、捨てられたらまた追いかければよかったんだ――元々この屋敷にはほぼ無理やり押しかけた身なのだから、今更気にすることは何もない。
これで、何があってもお二人と一緒にいられる――。
それさえあれば、後は何もいらないから――。
言葉にならない充足感に全身を満たされながら、メリージアは今日もこの屋敷で生きていく。
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