暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 12
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封じられてしまった。
 つまり、武術だか体術だかに通じる()()であることも間違いない。
 でも、その先が読めない。

 何故?
 何の為に?
 意図が、全然、読めない。

「……もう……、やめてよぉ……っ!」

 寒気が止まらない。
 心臓が凍りそうだ。
 なのに、耳の奥では全力疾走直後に似た血流音がやかましい。

(ハウィスが危ないの。誰だか知らないけど、余計なことしないで。お願いだから、ハウィスを護らせて。これ以上、私の邪魔をしないで……っ!)

 嫌な想像図が脳裏を掠める。
 横たわったまま動かない、土気色の冷たい体。
 母だと思ってしがみつき覗き込んだその人の顔は、新しい家族の温もりをくれた綺麗な恩人で……

「嫌だ!! ハウィス……、ハウィス!!」

 咄嗟にぶんぶんと首を振り、膝を抱えて唇を噛み締めた。
 口の中に、錆びた鉄の臭いが広がる。
 ガタガタと震える右腕を見れば、左手の爪先が食い込む(そで)に鮮やかな赤が少しだけ滲んでいた。

(あと……三日……。今日を除けば、二日しかない)

 今日から三日間は果樹園休業。
 アーレストに許可を貰ったから、教会への出入りと探索は自由。
 その点で、不審者として軍や自警団に捕まる可能性は低い。
 司教教育とやらをかわして指輪を確認、偽造、交換。
 入信に関しては、依頼を完遂した後でなら、どうとでもなる。

 これが今現在の、確かな事実。

「今日中じゃなきゃ……」

 悠長に座っていられる時間はない。
 呼吸を整えてから、のっそりと立ち上がり。
 着替える為にクローゼットの前へ移動する。

 開いた扉の内側も、昨日までと何一つ変わらない……いつも通りだった。



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